太田述正コラム#0502(2004.10.14)
<米国とは何か(続)(その1)>

 (本シリーズは、コラム#304??307の「一応」続きです。)

1 始めに 

 (1)問題意識
 米国が人種差別(奴隷制・黒人差別(コラム#225、306)と黄色人差別就中日本人差別)とこれに関連した、戦前における東アジアへの恣意的介入(コラム#221、234、249、250、253、254、256??259)という二つの原罪を犯し、現在ではキリスト教原理主義にからめとられつつある(コラム#93、95、149、331、386、419、456、458、470)のはどうしてなのでしょうか。
 換言すれば、どうして米国はかくもできの悪い(bastard)アングロサクソン(コラム#84、91、109、114、225、307、335、423、458、470)なのでしょうか。
 結論を先に申し上げれば、それは、米国がアングロサクソン文明を主、欧州文明を従とする両文明のキメラだからではないか、と私は考えています。

 (2)米国とカナダとの比較
 アングロサクソン諸国の中で米国だけが、母国の英国から戦争を行って独立した国であることはご存じの通りです。
 米国人は、英国からの独立と世界初の成文憲法(三権分立制)の採択による米国の発足を、人類史上画期的な意義のある出来事として喧伝してきましたが、ずっと時代を下ってから平和裏に独立し、いまだに英国の元首を自国の元首として仰ぎ、英国の不文憲法を成文化しただけに等しい憲法(英国と同じ議院内閣制)を持っている隣国のカナダと比べて、米国はそんなに胸を張れる国なのでしょうか。
 確かに一人あたりGDPを比較すると、米国が37,471米ドル、カナダ29,460米ドルと8,000ドルの差があります。しかし、これはカナダが米国に比べて気候の厳しい北方に位置していることや米ドルが過大評価されていること等を割り引いて考えなければならないでしょう。
 実際、生活の質の指標を見て行くと、例えば平均寿命は米国77.93歳に対し、カナダは79.96歳であり、カナダの方が米国を上回っています。
(以上、数字についてはhttp://www.gesource.ac.uk/worldguide/countrycompare.html(10月14日アクセス)による。)
今をときめくマイケル・ムーア(Michael Moore。1954??)監督の前作であるドキュメンタリー映画「ボウリング・フォー・コロンバイン(Bowling for Columbine)」(2002年)でも、カナダが、米国と同様の銃社会であるにもかかわらず、銃による犯罪は米国よりも比較にならないほど少なく、安全な国であることが紹介されています。

 (3)米国独立の経緯
 そもそも、米国が英国から独立した理由自体、薄弱この上もないものがあります。
 18世紀において、北米植民地の13州の人々は、英国民(臣民)として英国の不文憲法の下で個人の自由と地方自治を享受していた上に、本国の英国民とは違って中央政府の税金を基本的に免除されていました。
 にもかかわらず、軍事費の確保に苦しんだ英本国が、北米植民地駐留英軍の駐留経費のほんの一部の負担を新税の形で植民地の人々に求めたところ、これに反発して独立戦争が起こったわけです(コラム#96)。
 フランス革命やロシア革命は圧政を行っていたアンシャンレジームが打倒された文字通りの革命でしたが、これらに対し、米国独立革命は、打倒される対象が存在しない「革命」であり、全く不必要な流血だったと言わざるをえません。
 しかも、当時の英国は既に事実上世界の覇権国であり(コラム#457、459)、この英本国に戦いを挑むなど、正気の沙汰ではありませんでした。結果として独立に成功したのは、単に英国が、たとえ確実に勝てる戦争でも必要以上の出血や出費は好まないという、類い希なる国家であったからにほかなりません。

2 米国独立革命の思想

 このように見てくると、米国の英国からの独立なるものは、人類の犯した愚行の最たるものの一つだったと言っていいでしょう。
 そんな愚行をどうして当時の北米英領植民地の13州の人々はしでかしたのでしょうか。
 恐らく彼らが盲目的熱情にかられ、理性的な判断ができなくなっていたからに相違ありません。
 以下、その盲目的熱情の正体を探ることによって、米国の業をあぶり出して行くことにしましょう。
 (以下、特に断っていない限り、全般的にはhttp://www.atimes.com/atimes/Front_Page/FJ13Aa01.html、旧約聖書の神と新約聖書の神の違いについてはhttp://btobsearch.barnesandnoble.com/booksearch/isbninquiry.asp?sourceid=00395996645644787198&btob=Y&pwb=1&ean=9780743235846及びhttp://www.dailyutahchronicle.com/news/2004/03/12/News/Professor.From.Tel.Aviv.Delivers.Divine.Lecture-632623.shtml、米国建国の父達の思想の二つの源泉についてはhttp://www.encounterbooks.com/books/ontwp/ontwp_preface.htmlhttp://peterandhelenevans.com/int-novak.htmlhttp://www.probe.org/docs/2wings.htmlhttp://www.findarticles.com/p/articles/mi_m1282/is_6_54/ai_84107376、及びhttp://www.carl-olson.com/book%20reviews/two_wings_novak.htmlによる(いずれも10月13日アクセス)。しかし、私流に完全に換骨奪胎している。)

(続く)