太田述正コラム#0512(2004.10.24)
<イランの核関連施設への攻撃必至か>

 (コラム#509の注2に手を入れ、コラム#511に注5を付け加える等を行い、それぞれをホームページ(http://www.ohtan.net)の時事コラム欄に再掲載してあります。
コラム購読者数の伸びが一週間ほど完全に止まっています。普及宣伝をぜひともよろしく。)

 ロサンゼルスタイムスは、10月21日と22日と連日にわたってイランの核疑惑問題(注1)をとりあげ、イスラエルがイランの核関連施設への先制攻撃を検討中と報じました。

 (注1)イランの核疑惑については、詳しくはhttp://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iran21oct21,1,4913276,print.story?coll=la-headlines-world(10月22日アクセス)参照。

 先月イスラエルのシャロン首相は、核疑惑についてイランを激しく非難し(http://newsflash.nifty.com/news/ta/ta__kyodo_20040924ta011.htm。9月24日アクセス)、モファズ国防相やヤロン参謀総長もこれに揃い踏みをしており(注2)、イスラエルによる先制攻撃の可能性はかねてからとりざたされてきたのですが、どうやらここへ来てイスラエル政府は腹をくくったようです。

 (注2)イラク戦が始まってからしばらくしてイランはウラン濃縮計画の停止と国際査察団の受け入れを表明した(コラム#323)が、その後のイラクでの米軍の「苦戦」状況を見て、この姿勢を翻し、ウラン濃縮を再開して現在に至っている(http://news.ft.com/cms/s/853207f0-2203-11d9-8c55-00000e2511c8.html。10月20日アクセス)。

 イランはイスラエルと外交関係のない、イスラム原理主義体制の下にある、ヒズボラのようなテロリスト団体を支援している国であり、しかも核弾頭搭載能力がある、イスラエルを射程圏内にとらえる中距離弾道ミサイルであるシャハブ3を保有しており、イスラエルとして看過できない、というのがその理由です。しかも、イランは最近、このミサイルの命中精度を上げた新型の試射を行ったばかりです。
 イスラエルが1981年に先制攻撃したイラクのオシリク原子炉の場合に比べ、今回イランの核関連施設を先制攻撃することははるかに困難であることは確かです。
 イランの核関連施設はイラン全土に分散しており、かつその多くは秘匿され、地中深く堅固に防護されて設置されているからです。しかもイランは、イラクよりもイスラエルから遠距離にあります。
 しかし、イスラエルの諜報能力には定評があり、イスラエル空軍の企画能力や作戦能力は群を抜いています。そのイスラエル空軍は米国製のF-16I戦闘爆撃機100機を擁し、つい最近、米国から、2mのコンクリートを破壊して貫通できるバンカーバスター爆弾500個を購入する契約を締結したところです。
 これは米国が事実上、イスラエルによる先制攻撃にゴーサインを出したと受け止めることもできます。
 もとより、イスラエル政府は、IAEAや国連安保理等の経済制裁を含む圧力によって外交的にこの問題が解決されることを望んではいますが、イランがkg単位の核爆弾向け高濃縮ウラン製造能力を備えるに至ったならば、単独ででも必ず(恐らく3??4カ所の核関連施設を対象に)先制攻撃を敢行するだろうと考えられています。イランがこの能力を備えるに至るのは半年後から三年後の間と予想されています。
 ちなみに、最近のイスラエルでの世論調査によれば、この問題はあくまでも外交的に解決されるべきだとするのが54%、先制攻撃も考慮すべきだとするのが38%であり、世論が熟しているとは言えません。しかしロサンゼルスタイムスは、パレスティナ問題を一方的に解決すべく、国内反対勢力を押し切ってガザ地区を放棄しようとしているシャロン首相(コラム#237、300、321、323)としては、先制攻撃を成功裏に実施することで、一挙に世論の挙国一致的支持取り付けに成功するかもしれない、と考えているに違いない、と指摘しています(注3)。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-israeliran22oct22,1,5100759,print.story?coll=la-headlines-world(10月23日アクセス)による。)

 (注3)イスラエルにおいて、ガザ撤退を含むシャロンの一方的解決策への賛成は6??7割を占めるが、残りは強硬な反対派であり、イスラエル国内がこれほど極端に割れたことは初めて。多数派は世俗的で欧米志向、少数派はヨルダン川西岸入植者等で信心深く伝統志向、拝外主義的にして反民主主義的。少数派中の過激派による、シャロン首相等イスラエル政府首脳の暗殺や、この解決策の挫折をねらった、パレスティナやイスラム教を対象にした攻撃が懸念されている。軍の兵士の中にも、不服従や辞職の表明の動きが見られる。多数派の中には欧米のパスポートを取り、「内戦」が始まった時にはイスラエルを脱出する準備を進めている人が大勢出てきている。このように現在、イスラエルは未曾有の危機的状況下にある。ただしこのような危機を惹き起こした最大の原因は、パレスティナ側の一貫した硬直的姿勢にあることは銘記すべきだろう。(http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,2763,1334914,00.html。10月24日アクセス)