太田述正コラム#0514(2004.10.26)
<オリンピックでのメダル獲得数(その3)>
(2)米国
アテネでの米国の金メダル獲得数の全金メダル数に占める割合は史上最低を記録しました。
これは、金メダルがより多くの国々によって分かち合われるようになったことの反映でもあります。実際、アテネでの金メダル獲得国は56カ国に及び、これはこれまでの最高だったアトランタでの53カ国を上回る新記録でした(注2)。
(注2)もっとも、金銀銅いずれかのメダルをとった国の数では、アテネは70カ国であり、前回のシドニーの時の75カ国を下回った。
その背景としては、スポーツ後進国の多い発展途上国のうち、経済成長が軌道に乗った国が増えていること、グローバライゼーションの進展に伴い米国のお家芸だった他国の選手の移民や引き抜きによる自国籍化が他の先進国でも増えていること、女性のスポーツ潜在能力が十分引き出されていない現状においてオリンピックにおける女性競技種目の急速な拡大がスポーツ後進国の女性によるメダル獲得をもたらしていること、等が挙げられています。
また、ドーピング検査の強化により、同時に薬品先進国でもあるスポーツ先進国におけるこれまでの人工的優位が崩れたことも背景の一つに挙げて良さそうです。
米国のもう一つの問題は、米国の金メダルの半分以上がトラック・フィールド(track and field)競技と水泳というわずか二種類の分野で獲得されたものである点です。アテネで40個以上のメダルを獲得した5カ国のうち、こんなに得意分野が偏っている国は米国だけです。
(以上、http://www.csmonitor.com/2004/0830/p01s03-woeu.html(8月30日アクセス)及びhttp://slate.msn.com/id/2105868/(8月31日アクセス)による。)
いずれにせよ私は、スポーツ、特にオリンピックスポーツ面でも米国の「変質」、「凋落」の兆しが感じられてなりません。
(3)「日本」
ア 日本
日本については、日本経済新聞の後藤康浩編集委員の指摘が参考になります。
アテネ五輪ではっきり示されたように、日本の獲得メダルは、かつて強かった団体競技ではなく、個人競技が中心になっています。競泳で2個の金メダルを得た北島、男女合計で8個の金を獲得した柔道、金メダルについては、シドニー大会から続けて金をとった女子マラソン、女子レスリング、ハンマー投げと男子の体操団体総合の1個を除けばすべてが個人競技でした。
これは、日本経済、とりわけモノづくりの現場ににおける変化と同じ変化です。
すなわち、日本の組み立て型産業は高度成長期に定着したベルトコンベヤーの流れ作業を中心とする少品種大量固定生産から、今や多品種少量変動生産へと変化しています。その中核にあるのが一人から数人で組み立ての全工程を完結するセル生産であり、これは能力の高い多能工を前提にしたモノづくりの「個人競技」とも言えるのです。
どうやら、このところの日本経済の装いを新たにした復権とアテネでの日本選手の活躍とは相関関係がありそうであり、仮にそうだとすれば日本の将来に燭光が差して来ている、ということになります。
(以上、http://www.nikkei.co.jp/neteye5/goto/20040905n7795000_05.html(9月6日アクセス)による。)
イ 韓国
韓国は日本にメダル獲得数で抜かれたことは大ショックだったと思われますが、韓国自身の成績が決して悪くなかったこともあってか、韓国のマスコミによるアテネオリンピックの総括は、おおむね淡々とした記述に終始しています。ただ、日本「躍進」の原因を探ろうとする覇気ないし好奇心が感じられないことは気になります。(例えば、(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200408/200408300001.html(9月1日アクセス)。)
(続く)