太田述正コラム#0526(2004.11.7)
<ブッシュの大統領再選(その3)>

  ウ ゲームの放棄
 ひたすら待つなんてごめん蒙る、という民主党支持者達に残された手段はゲームを放棄し、米国から逃げ出すことしかありません。
個人単位で逃げ出す方法としては、外国に移住することが考えられます。
一番手頃なのは、隣国でかつ同じアングロサクソンの国であるカナダへの移住です。
選挙後、カナダへの移住に関するサイトへの一日あたりの訪問者数が選挙前の数倍にはねあがっている、と世界のメディアが面白おかしく取り上げています。(例えば、http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/3987697.stm(11月6日アクセス)やhttp://www.asahi.com/international/update/1106/008.html(11月7日アクセス)。)
 集団で逃げ出す方法としては、米国から州単位で分離独立し、あるいは分離してカナダと合邦することが考えられます。
 かつては米国を構成する州が米国から離脱する自由があるかどうかは議論の余地がありました。
 1830年の、米上院での二人の議員の間での、米国憲法が各州の間の条約に過ぎないのかそれとも人民(people)の間の協定なのか、をめぐって行われた論争は有名です。
 前者の解釈が成り立つのであれば、州は米国から離脱できることになります。
 しかし、南北戦争が終わり、とりわけ憲法修正第14条で連邦市民(citizenship)の定義が規定された以降は、憲法学者達は、もはや米国憲法条約説は成り立たない、という解釈で一致しています。
 もとより、憲法を改正して州の米国からの離脱を可能とし、その手続きを定めることは可能です。
 他方、米国が例えばカナダと条約を締結し、米国の特定の州をカナダに割譲することについては、憲法を改正してもできないとする説と改正しなければできないとする説があります。
 アラスカ・ハワイ・テキサスではかつて米国からの分離運動がありましたし、今でも西海岸のワシントン州とオレゴン州(どちらも今回の選挙でケリーが勝った州)にはカナダのブリティッシュ・コロンビア州と一緒になって新しい国をつくろうという運動があります。
(以上、http://slate.msn.com/id/2109317/(11月6日アクセス)による。)

4 私の見解

 現在の米国における共和党支持者=保守派≒キリスト教原理主義者は、かつての米国の独立を主導した勢力と基本的に同じであり、彼らが多数を占めたことによって、現在の米国は先祖返りをしている、と私は考えています。
そもそも米国の英本国からの独立は、米国の部分的欧州化を意味する人類史上の逸脱現象であり、そんな米国が230年近く(1929年以降の大恐慌時代を除いて基本的に)繁栄を維持し、19世紀末以降は世界一の経済力を誇り、東西冷戦終焉後は世界の唯一の覇権国たりえたのは、アングロサクソンとしての素地に加うるに、様々な僥倖が積み重なったおかげに過ぎないのであって、決してキリスト教原理主義者が米国を主導してきたからではありません。
仮に私が米国の民主党支持者であれば、キリスト教原理主義を真正面から批判し、その信奉者とシンパを迷妄から解放する運動、すなわち米国世俗化運動(注5)に、かつて多大の犠牲を払って市民権運動に取り組んだ時以上に、まなじりを決して積極的に取り組むことでしょう。

(注5)「できそこないのアングロサクソン」から「純正アングロサクソン」に生まれ変わる運動と言い換えてもよかろう。

 「敵」は日々その勢力を増しており、先に触れたような、ドル大暴落でも起こらない限り、民主党が共和党から米国の権力を奪還することは容易ではありません。
 しかし、正しいことはいつか必ず実現する、と信じて上記世俗化運動に邁進する以外には、民主党支持者に決して展望は開けないことでしょう。

(完)