太田述正コラム#0531(2004.11.12)
<第三国潜水艦の領海侵犯(その2)>

 (私のホームページの掲示板で、前回のコラム冒頭で私が述べたことに関連して種々議論がなされています(#760??764)。なお、当コラムのメーリングリストに新規に登録したい方は、http://www.ohtan.net/mail/index.htmlで!)

<前回の補足>

??細田官房長官は、11月午前の記者会見で、αが10日に日本領海内を航行した時間は二時間弱だったと述べました。この点だけとっても、やはりサンケイの報道(http://www.sankei.co.jp/news/041110/sei070.htm前掲)が一番正しかったことになります。
 なお、防衛庁が、領海が侵犯された時間について、自衛隊の潜水艦探知能力が明らかになるので差し控えたいと答えた、という報道が同じサンケイの記事でなされていましたが、P-3C部隊が一旦潜航中の潜水艦をとらえてから、その航跡を見失う可能性などまず皆無と言っていいのは海軍通の間では常識です。小泉首相が「そういう情報は、はっきりするまではいちいち発表しない方がいいと思う」と10日に答えていたhttp://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20041110AT3L1006N10112004.html。11月10日アクセス)ところから見て、官邸サイドから箝口令がしかれていたということなのでしょうが、防衛庁も苦し紛れに余計なことを言ったものです。
??細田官房長官は10日夕刻の記者会見で、同日午前8時45分に海上警備行動を発令した時点で潜水艦は領海外に出ており、1度も浮上や退去を求めることができなかったことを明らかにした、と東京新聞が報じておりhttp://www.tokyo-np.co.jp/00/detail/20041111/fls_____detail__000.shtml等。11月11日アクセス)、浮上や退去を求めた、という前日の一部報道は誤りだったことがはっきりしました。
??読売は、「海上自衛隊は、9日未明から潜水艦を追尾していた」と報じ(http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20041110ig90.htm。11月11日アクセス)、私の指摘、「この潜水艦は午前4時に初めて発見されたわけではありません」(コラム#530)が正しかったことが間接的に示されました。もとよりこの読売の記事も完全ではなく、12日昼の10チャンネルの報道番組が報じたように、αは、中国の港を出たときから米海軍(のソナー網)によって追尾され、日本政府(海上自衛隊)に対し、注意が喚起されていた、(そしてその後、日本のソナー網によって引き続き追尾されていた、)というのが本当のところのようです。
??また毎日は、「防衛庁は潜水艦のスクリュー音などから「中国海軍の漢(ハン)級攻撃型原子力潜水艦」とほぼ断定した。・・「漢級」は中国初の原潜で、1970年から90年にかけて、5隻が建造された」と報じており(http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20041111k0000m010157000c.html。11月11日アクセス)、これまた私が指摘した(コラム#530)「音紋情報さえあれば、これと照合することによって、その潜水艦の艦名まで分かります。」が正しかったことがおおむね示されたところです。

4 領海侵犯した理由

 (1)様々な説
  ア 事故
今年4月、日本政府が反対したにもかかわらず、中国政府は「沖ノ鳥島は『島』ではなく、EEZが設定できない『岩』だ」として、海洋調査船で日本最南端の沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)内で調査を行いました。調査目的は、海中に向けて音波を発信し、船尾クレーンからはワイヤを曳航(えいこう)していたところから見て、海底の地形や水温分布、海流など潜水艦を展開するために必要なデータを収集していたと見られます。
(以上、http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041112/mng_____tokuho__000.shtml(11月12日アクセス)による。)
平松茂雄・杏林大教授(中国軍事)は、このことを踏まえ、「・・<以後この>海域で中国潜水艦が活動していたとしても不思議ではない。・・中国の潜水艦救難艦が付近にいたとすれば、何らかの事故<のため、日本の領海に入ってしまった>可能性も考えられる」と主張しています(http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/news/20041111k0000m010172000c.html。11月11日アクセス)。
しかし、この救難艦の甲板には、潜水艦を引き揚げたりする深海救難艇はなく、海上自衛隊幹部は「海中で潜水艦が事故を起こしているとは考えにくい」としており(http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20041110ia05.htm。11月10日アクセス)、この説は成り立ちません(注2)。

(注2)海上自衛隊は今月5日から、鹿児島県・種子島の南東315キロの太平洋で、中国海軍の潜水艦救難艦「861」と曳船(えいせん)の2隻の活動を確認して以降、護衛艦を現場海域に急派していた。さらに、2機のP-3C哨戒機がソノブイを多数投下するなどして、24時間体制で監視飛行を続けていた(読売上掲)。救難艦と曳船は、速度や方向の変更を繰り返しながら航行していた(http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/news/20041111k0000m010171000c.html。11月11日アクセス)。

 イ 実効支配準備 
平松氏は、次のような指摘も行っています。
70年代のパラセル(中国名・西沙)諸島、80年代のスプラトリー(同・南沙)諸島への中国の対応を振り返ると、領有権の主張から始まり、次ぎに海洋調査を行い、それが一段落すると軍艦の派遣等によって軍事プレゼンスを誇示し、最後は兵員駐留等の形で実効支配に持ち込む、というパターンが見られる。これと似たことを西太平洋でも同じことを中国は行いつつある。西太平洋では海洋調査が終わった(前述)ので、潜水艦を軍事プレゼンス目的で展開してきた、と考えられる。
(以上、http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041112/mng_____tokuho__000.shtml前掲による)
しかし、中国が領有権を主張している尖閣諸島ではなく、領有権を主張したことがない沖縄の先島諸島の領海を侵犯することが、その次ぎに来るはずの中国による実効支配の前触れと考えることには無理がありすぎます。

(続く)