太田述正コラム#0532(2004.11.13)
<第三国潜水艦の領海侵犯(その3)>
ウ 水上艦艇攻撃訓練
ある海上自衛隊幹部は、「領海侵犯した目的はわからないが、・・領海侵犯した・・潜水艦が<上記の>曳船を標的に訓練していた可能性もある」としています(http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20041110ia05.htm上掲)。
しかし、この幹部自身が認めているように、これでは領海侵犯した理由の説明にはなっていません。
エ 台湾有事海上封鎖訓練
海上自衛隊の元潜水艦隊幹部は「中国は台湾海峡で作戦を行う際、台湾の東側海域に潜水艦で機雷を敷設し、日米の<艦艇の>行動を封じようとするといわれる。そうした作戦と関連があるのでは」と話しています(http://www.asahi.com/politics/update/1111/001.html。11月11日アクセス)。「中国は台湾有事の際に、台湾周辺を海上封鎖する戦略を検討しており、防衛庁・自衛隊内には「宮古列島の周辺海域は、中国海軍による封鎖が実施される可能性がある」と警戒する向きが少なくない。今回の領海侵犯についても、「台湾有事に備えた準備の一環ではないか」(防衛庁関係者)との見方が出ている」(http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20041110ia04.htm。11月10日アクセス)というのも同じ趣旨でしょう。
しかし、日本の領海内に機雷を敷設することを想定した訓練潜航航行を実際の場所でやるバカがどこにいるでしょうか。中国海軍(α)は日本の領海内の海底状況に通暁しているはずがないことから座礁の危険があり、かつ日本側から攻撃される危険もあるからですし、しかも、そんな危険を冒した上、日米等に対して有事の作戦の手のうちを明かすことになってしまうからです。
オ 米軍偵察
「米軍関係者によると、今回潜水艦が発見された周辺の海域では最近、米海軍が小規模の訓練を行っており、偵察のために近づいたのでは、との見方もある」とも報じられています(http://www.asahi.com/politics/update/1111/001.html上掲)。
この小規模の訓練と関係があるのかどうか分かりませんが、10日の午前中に米海軍の原子力潜水艦が沖縄の勝連(ホワイトビーチ)に短時間入港して出港しています(http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20041110AT3K1001110112004.html。11月10日アクセス)。
しかし、訓練偵察のためなら、わざわざ潜水艦を使う必要はありませんし、いずれにせよ、これも領海侵犯した理由の説明にはなっていません。
カ 強行偵察
「潜水艦が追尾を受けながらも日本周辺をなかなか離れないことなどから、政府内には「行動はかなり大胆で、意図的、計画的に入ってきたものだ。こうした行動に日本がどの程度反応するかや、こちらの技量を探る意図があるのだろう」(防衛庁幹部)との見方が出て」います。
また、「海自の別の元潜水艦隊幹部<は>、・・種子島周辺にいた潜水艦救難艦は「おとり」で、「引きつけたスキに潜水艦で侵犯するという確信犯的な手口ではなかったか」と語ったと報じられています(http://www.asahi.com/politics/update/1111/001.html上掲)。
一見もっともらしい説ですね。
しかし、「日本がどの程度反応するか」を見ることはヤブヘビであり、日本の防衛態勢を強化させてしまうくらいのことは、北朝鮮の不審船騒動が何をもたらしたかを熟知しているはずの中国政府に分からないはずがありません。(案の定、海上警備行動発令が遅すぎたという大合唱が、既に今回の件で日本国内で起きています。)
「技量を探る」というのもおかしい。
それが目的ならば、浅い海域から日本の領海に接近するはずです。これなら、領海侵犯までして何の反応もなかったら、日本はαに気付いていないことが分かります。ところが、今回αは太平洋側の深い海域からやってきています。深い海域では、日米のソナー網でまず間違いなく探知されてしまうであろうことくらいは中国の海軍当局は承知しているはずであり、たとえ日本の領海に接近ないし侵犯して日本が騒いだとしても、日本の「技量を探」ったことにはなりません。
「潜水艦救難船」を「おとり」にして、日本側がどれくらい惑わされるかを見極めようとしたのではないかという説に至っては、ソナー網の存在とその威力を知らない人の妄言にほかなりません。ソナー網は、潜水艦にターゲットをしぼっており、水上艦艇のかきたてる騒音など見向きもしないからです。
キ 不明
このように見てくると、「今回なぜ領海に入ってきたのか、よく分からない」とコメントした軍事評論家の江畑謙介氏(http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/news/20041111k0000m010172000c.html前掲)はなかなか率直で好感が持てますね。
(続く)