太田述正コラム#9545(2017.12.26)
<映画評論52:否定と肯定(その1)>(2018.4.11公開)

1 始めに

 本日はK.K作業がなくなったということもあり、ネットをチェックしたところ、(この表現が適切かどうかは分かりませんが、)灯台下暗し、有楽町の「TOHOシネマズ」のシネシャンテで「否定と肯定」(原題:Denial)を上映していることが分かり、午後、出掛けてきました。
 「ユダヤ人を救った動物園」シリーズがまだ完結していませんが、今回の映画も、ストーリーがポーランドでのホロコーストがらみであって、しかも、女性のノンフィクション原作に基づく、(この原作者を演ずる)女性主演の映画でもある、という意味で、並行して取り上げるにふさわしい、と判断した次第です。

A:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%A6%E5%AE%9A%E3%81%A8%E8%82%AF%E5%AE%9A
B:https://en.wikipedia.org/wiki/Denial_(2016_film)
C:パンフレット
α:https://en.wikipedia.org/wiki/Irving_v_Penguin_Books_Ltd

 なお、シネシャンテは、2、3、4階にそれぞれ1スクリーンがあり、1階に券売所があるのですが、従前通りの人間だけによる実鑑賞券(実券)交付システムであり、ほっとしました。
 但し、回数券持参の客は、窓口の外でその券に印字されているQRコードを機械に読ませて、使用済みでないことを示さなければなりません。
 (ちなみに、このQRコードを携帯に読み込ませた上で、自宅で実券予約ができるんですね。)

2 映画の概要

 この映画の概要は以下の通りです。

 「ミック・ジャクソン監督、デヴィッド・ヘアー脚本で2016年に製作された歴史映画で、デボラ・リップシュタット<(注1)>の書籍『否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる戦い[(History on Trial: My Day in Court with a Holocaust Denier(2005年))<(注2)>]』を原作とする。

 (注1)Deborah Lipstadt。1947年~。米国の歴史学者で米エモリー大教授。独系と加系のユダヤ人夫妻の子。エルサレムのヘブライ大で学び、ニューヨーク市立大(歴史)卒、ブランダイス大修士・博士。ワシントン大を経て現職。
 1996年9月に、彼女と出版社のペンギン社がアーヴィングによってイギリスで名誉棄損で訴えられるが、2000年4月、勝訴している。
https://en.wikipedia.org/wiki/Deborah_Lipstadt ([]内も)
 (注2)原著上梓後、12年経った2017年にハーパーコリンズ・ジャパンから文庫判で『否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』というタイトルで邦訳版が上梓された。(C)
 この映画とコラボした形だ。

 <この>作品ではアーヴィング<(注3)>対ペンギンブックス・リップシュタット事件が扱われ<ている。>・・・

 (注3)David Irving。1938年~。「ヒトラーがホロコーストに対して消極的だったと主張した。・・・デボラ・リップシュタットから[、その著書、Denying the Holocaust: The Growing Assault on Truth and Memory(1993年)の中で、]「ホロコースト否定論のもっとも危険な語り手の一人」と批判され、彼女が名誉毀損を行ったとして訴えた・・・裁判ではリップシュタットの主張が正当であると認められ、アーヴィングは200万ドルに及ぶ支払い義務を負うことになり、破産した・・・。その後、アーヴィングを刑事処罰すべきだとの主張があった時に、リップシュタット教授は「学問的論争の事案を法廷で判決してはならない」としてアーウィングの起訴に反対する学者の署名に加わっている。2005年11月11日、ホロコーストを否定する発言が禁止されているオーストリアで逮捕された。逮捕後、彼は抗弁においてホロコーストについての意見を変えたと主張し、「そのときはそのときの知識に基づいてああ言ったが、アイヒマンの関連書類に出会った1991年からは、そのようなことはもはや言っていないし、いまも言わないつもりだ。ナチスはたしかに数百万のユダヤ人を殺害した」と述べた。2006年2月・・・に3年間の服役という判決を受ける〈も、同年12月、オーストリアへの再入国禁止の条件付きで出所。〉。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0
https://en.wikipedia.org/wiki/Deborah_Lipstadt ([]内) 前掲
 ロンドンのインペリアル・カレッジで暫時物理学を学ぶも学資が払えず中退し、後に同じロンドンのユニバーシティ・カレッジで経済学を学ぶも同じ理由で中退している。
https://en.wikipedia.org/wiki/David_Irving (〈〉内も)

⇒アーヴィングについては、「創世記」時代の太田コラムの中で、この裁判も含め、さんざん取り上げられた(コラム#989、970及び同Q&A、972、976及び同Q&A、977Q&A、989及び同Q&A、991、993、1044Q&A、1252、4003)人物です。
 当時、私の記述に噛みついてきた、医師たる読者がいたことが懐かしく思い出されます。(太田)

 ホロコースト研究家のデボラ・リップシュタット教授は、ナチス・ドイツ学者のデイヴィッド・アーヴィングを攻撃する論を展開した。アーヴィングはイギリスで、リップシュタットの著作の中で自分がホロコースト否定論者と呼ばれたとして、彼女とその出版社を相手取り、名誉毀損訴訟を起こした。イギリスの名誉毀損訴訟では、被告側が立証責任を負うため、事務弁護士のアンソニー・ジュリウス、そして法廷弁護士のリチャード・ランプトンが率いるリップシュタット側のチームは、アーヴィングがホロコーストに関して嘘をついていると立証することを求められる。」(A)

(続く)