太田述正コラム#0554(2004.12.5)
<胡錦涛時代の中国(その1)>
(北方領土問題をめぐる、掲示板(http://www.ohtan.net/cgi-bin/bbs/ohta_bbs.cgi)上の議論(??#822)をご参照下さい。)
1 始めに
今年9月に江沢民が中国共産党中央軍事委員会主席を辞め、胡錦涛がその跡を襲ったことで、中国は名実共に胡錦涛時代に入りました。
その中国の現在を、コラージュ風にご紹介してみましょう。
2 窒息させられている知識人
二年前に胡錦涛・温家宝体制が発足した時、経済は爆発的に成長を続けているものの知的自由は禁圧されている、といういびつな中国の風通しが少しは良くなるのではないか、という希望を多くの中国人が抱きました。
しかし、その期待は裏切られ、知的自由の禁圧は一層甚だしくなっています。
9月以来、ニューヨークタイムス北京支局の嘱託(researcher)の中国人が、当局に国家機密漏洩容疑で拘束されていますが、これは彼が同支局長による「江沢民、中共軍事委主席辞任決まる」とのスクープ記事のニュースソースとなったことを疑われてのことだと考えられています。
ニューヨークタイムスは、異例にも、ニュースソースはこの中国人ではない、とまで述べて彼の解放を訴えています。
この中国人は、ニューヨークタイムスの嘱託になる前は、中国官憲の腐敗を暴く記事を中国の新聞に多数発表してきた人物です。
この中国人の奥さんがご主人拘束に抗議の声を挙げたところ、彼女まで一時拘束されてしまいました。
現在中国では、このような記者が42名も拘束されており、世界中でジャーナリスト拘束数の最も多い国となっています。
北京大学のジャーナリズム専攻のある教授は、胡錦涛・温家宝体制は、権力を完全に掌握した今、一時緩めた知的自由の禁圧を再び復活し始めた、と指摘していますが、この教授も先般、検閲を批判する論陣を張ったことをとがめられ、教壇に立つことを禁止されてしまいました。
(以上、http://www.nytimes.com/2004/12/01/opinion/01kristof.html?hp=&oref=login&pagewanted=print&position=(12月1日アクセス)による。)
このように政府・共産党に批判的な学者・活動家達や政府・共産党と異なった考えを抱く学者・活動家達を総称する、公共知識人(public intellectuals。中国語不明)という言葉が4年ほど前から中国のミニコミ誌等で使われてきたのですが、今年9月に広東省のある有名な週刊誌が、50人の公共知識人を挙げた記事を掲載したところ、明らかに政府の情報宣伝部(省)のお声掛かりで、11月下旬に上海の政府べったりの解放日報が、公共知識人なる人々は傲慢なエリート主義に冒されており、これら知識人は党と知識人、大衆と知識人を切り離す悪しき役割を果たしている、と非難したのです。
この記事はそっくりそのまま11月末に人民日報に転載されました。
しかし考えようによっては、このご時世に、「お上」に批判的な或いは「お上」と異なる見解を表明する知識人がわずか50人内外・・「学者」総数の1000分の1に過ぎない・・しか中国にはいない、ということこそ中国の病巣の深刻さを示すものかもしれませんね(注1)。
(以上、http://www.csmonitor.com/2004/1130/p01s03-woap.html(11月30日アクセス)による。)
(注1)中国の知識人(ないし学者)のレベルは決して低くない。英タイムス紙が先般発表した世界の大学ランキングによれば、1位はハーバード大学で、アジアからは8大学が50位以内に入っている。すなわち、12位東京大学、17位北京大学、18位シンガポール国立大学、29位京都大学、39位香港大学、41位インド工科大学、42位香港科学技術大学、50位シンガポールNanyang大学だ。このランキングの計算方法はやや理科系偏重だが、これだけ「優秀」な中国の知識人の心中には物言えぬ憤懣が煮えたぎっている、と思いたいところだ。
ちなみに、韓国の大学では、ソウル国立大学がかろうじて119位に顔を出しており、「自由・民主主義社会」韓国の知識人(ないし学者)のレベルの衝撃的なまでの低さが推し量れる。
もとより、日本の知識人(ないし学者)のレベルもお世辞にも高いとは言えないことが推し量れることもつけ加えておこう。
(以上、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200412/200412030031.html
(12月4日アクセス)による。)
(続く)