太田述正コラム#0560(2004.12.11)
<胡錦涛時代の中国(その5)>

 (21,965→21,710→18,549、と減ってきていた本ホームページへの訪問者数が、11月10日??12月10日の一ヶ月は24,310人となり、新記録を達成しました。中国の潜水艦の事件をとりあげたことが大きかったようです。累積訪問者数は、273,893人です。
 なお、メーリングリスト登録者数は現在1209名です。)

 いくらインターネット検閲を強化したところで、中国は確実に情報化社会に向かっており、
歴史的事実を知った国民がどんどん増えることでしょう。そして早晩、偽りの歴史認識を維持することはできなくなります。それは即、共産党による支配の根拠が崩れることを意味するのです。
 
5 胡錦涛体制の課題
 
(1)イデオロギー再構築へ?
以上、胡錦涛時代の中国の諸断面を大急ぎで見てきましたが、胡錦涛体制は、一人当たり所得こそ(所得配分の著しい不平等化はあっても)増えたけれど、以前よりもむしろ体・心とも不幸になり、その一方で欲望は増すばかりである、という中国国民を前にして、知識人を弾圧して時間稼ぎをしながら、共産党一党独裁体制を維持するイデオロギーの再構築に取り組んでいるのではないか、と私は見ています。
イデオロギーの再構築などあきらめ、反日ナショナリズムを放棄するだけでなく、ついでに共産党一党独裁(ファシズム)もやめてしまえばいい、と言うご意見もあろうかと思いますが、一気にそんなことをすれば共産党内の守旧派が蹶起するかもしれませんし、少なくとも中国国内が不安定化するのは避けられないでしょう。

(2)開発独裁イデオロギーは不適当
新たなイデオロギーとしてまず考えられるのは、共産党一党独裁(ファシズム)を維持しつつ、過去によってそれを正当化する反日ナショナリズムから、将来における豊かな社会の実現を目指す(かつてのインドネシアや韓国のような)開発独裁イデオロギーに乗り換えることです。
しかし、これも危ういこと限りありません。
中国共産党による支配の前半、すなわち1949年から開放体制に転じた1978年までの30年弱の歴史は、中国共産党が独自の実験的経済政策を次々に実施したものの、豊かな社会を構築するどころか、中国国民に何度も塗炭の苦しみを味わわせた暗黒の歴史だからです。
実際中国では、中華人民共和国成立までの歴史については、偽りの歴史認識に基づいたものではあっても、ストーリーの伴った歴史教育がなされていますが、共和国成立以降については、歴史的事実が羅列されるだけで、一切説明がなされていない形の「歴史」教育しか行われていません。ウソすらつけないみじめな歴史だということです(NYタイムス前掲)。
仮に中国国民を「説得」して、このような過去に目をつぶらせたとしても、そもそも、経済的な豊かさだけに共産党の将来をかけるわけにはいかないでしょう。
これまで中国は高度経済成長を続けてこられましたが、これがそのまま続くとは考えられません。不況が訪れたり、ゼロ成長が続いたり、といった事態は大いにありうるのであり、そうなった時にただちに共産党支配の正当性が問われるようなことは回避する必要があります。

(3)啓蒙専制イデオロギーを採択?
結局、将来の自由・民主主義化に向けて、中国の領域的統一を保ちながら、安定的に国家運営にあたって行くことを中国共産党のミッションとする、啓蒙専制イデオロギーとでも言うべきイデオロギーに転換することが最も適当ではないでしょうか。
前例としてふさわしいかどうか議論があるところだとは思いますが、立憲君主国家への復帰を究極の課題としていたスペインのフランコのファシズムが思い起こされます。
胡錦涛らも同じように考えている、と思いたいところですが果たしてどうでしょうか。 
 中国の台湾政策に変化が生じるかどうかがポイントだと思います。

(完)