太田述正コラム#9629(2018.2.6)
<松本直樹『神話で読みとく古代日本–古事記・日本書紀・風土記』を読む(その1)>(2018.5.23公開)

1 始めに

 別のシリーズの最中であるところ、依然として、余り気は進まないのですが、表記の本のテーマの意義は分かるので、この本を読むシリーズの1回目をとにかく書くことにしました。
 で、この本のテーマなのですが、出版元のふれこみでは、次の通りです。
 「『古事記』『日本書紀』は、ただの神話ではない。新しい国家の実現を目指し、大和王権が各地で口承されていた神話の力を利用して創作した、極めて政治的な“神話”である。本書では、この二つの“建国神話”をどのように読めばよいのかを説き、また「風土記」を読みとくことで、国家・地方間のダイナミックなテキストの攻防を明らかにする。地方が“建国神話”を受け入れたとき、「日本人」の自覚と、精神史上の「日本」が誕生した。その過程を目撃<する>。」
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480068958/
 著者の松本直樹[(1963年~)]は、早大第一文卒、同大修士、博士で、
https://researchmap.jp/read0206439/
早大教育学部長、
https://www.waseda.jp/fedu/edu/about/message/
早大教育・総合科学学術院長、を経て、現在、早大教育・総合科学学術院教授、という経歴です。
http://www.webchikuma.jp/articles/-/138
 彼は、「中・高の6年間、校庭越しに理工の51号館を仰いで過ごし、迷うことなく早稲田に入学。以来、早稲田に通い続けて33年目<(2014/10/27 現在(太田))>を迎えました。学部2年の授業で古事記と出合ったのが研究者になるきっかけでした。」
http://www.wasedaweekly.jp/detail.php?item=1175
と自己紹介しています。
 ちなみに、松本ゼミが下掲で紹介されています。
http://www.quon.asia/yomimono/waseda/seminar/2012/09/14/3545.php
 なお、表記の本の序章ですが、下掲に掲載されています。
http://www.webchikuma.jp/articles/-/138 前掲

2 松本直樹『神話で読みとく古代日本–古事記・日本書紀・風土記』を読む

 「古事記や日本書紀の<神話>とは、大和王権国家の由来と正当性を説くために創作・編集・記載された<建国神話>で<王権神話>とか<宮廷神話>などとも言われる、極めて政治的な<神話>である。・・・
 純粋な神話とはいかなるものであるか。
 たとえば直木孝次郎<(注1)>は、・・・次のように定義づけている。

 (注1)1919年~。一高・京大(史学科)卒、京大博士。大阪市立大学、岡山大学等の教授を歴任。大阪市立大学名誉教授。 大阪文化賞、和島誠一賞、井上靖文化賞を受賞した日本古代史研究の泰斗。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B4%E6%9C%A8%E5%AD%9D%E6%AC%A1%E9%83%8E
 
 神話といわれるためには・・・まず第一に、神々についての物語であること。
 第二に、・・・広く民衆のあいだに語り伝えられ、信じられていること。
 第三に宗教性または呪術性をもち、社会を規制する力をもつこと。・・・

 神話は本来、宇宙の成り立ち、人の生き死に、社会の道徳や法までを決定する力を持ち、人々に信仰されていた。
 その意味で、同じ神の伝承でありながら、昔話や民話といわれるものとは一線を画している。
 さて、古事記や日本書紀の<神話>は、第二の条件に明らかに抵触するだろう。
 だから、純粋な神話と作られた<神話>とを、明確に区別しなければならないのだ。」(16~17)

(続く)