太田述正コラム#0567(2004.12.18)
<中国共産党と支那社会(その1)>

1 始めに

 支那文明や中国共産党にはまごうことなき負の側面があります(注1)が、だからといって負の側面だけをことさら強調したり、その負の側面が未来永劫変わらないと主張したりするようなことは控えるべきでしょう。情勢判断を誤るのがオチです。

 (注1)中共の現在の知識人の問題点に触れたコラム#132、張学良に関する#189・290・292、毛沢東と周恩来に関する#204、宋美齢に関する#177??179、孫文に関する#228??230、漢人に関する#232・233、現在の中共に関する#347??350・352・353、更に#554、555・557・559・560等を参照。

 このことは、いわゆる台湾「独立」運動に携わっている人々の支那論・中共論に接していつも感じるところです。
 今回は中共政権樹立後の支那の家庭生活の変化を題材にとり、私の言っていることが正しいかどうかを皆さんご自身に判断していただきましょう。

2 男女平等政策
 
 中国共産党(中共)が1949年に支那の政権をとると、翌年の1950年の法律により、男女はタテマエ上平等となり、花嫁売買や蓄妾が禁止され、離婚条件が法定化されました。
 それまでの支那は典型的な家父長制の社会であり、女性の権利はゼロで、妾を何人も持っている男はざらでした。
 この時、通常は何世代もかかる変化を、中共は2??3年で有無を言わさず成し遂げたのです。
その結果生じた支那社会の変化は、大躍進政策や文化大革命よりもはるかに巨大でした。
実に1960年までに、中共の都市部は一挙に近代社会へと変貌したのです。都市においては肉体的能力ではなく、知的能力がものを言いますが、知的能力においては、女性はまさに男性と平等であり、男女平等がタテマエだけでなく実際にも確立したことによって・・。
1980年の法律では、離婚条件が緩和され、かつ離婚まで2年かかっていたのが6ヶ月に短縮されました。この法律の隠されたねらいは、文化大革命中に農村地帯に下放されて現地の女性と結婚した都市出身の青年を若気の過ちから「解放」することでしたが、この法律は、結果として中共全体の家庭内暴力に苦しむ女性も救うことになりました。
2001年の法律は、夫の蓄妾を離婚原因の一つに明記するとともに、財産分与においても妻の権利を強化しました。
この半世紀余の変化を象徴しているのが、1950年には妻の稼ぎは一家の収入の20%に過ぎなかったのに、現在では40%に増えている事実です。
 (以上、http://www.csmonitor.com/2004/1217/p01s04-woap.html(12月17日アクセス)による。)
 
3 一人っ子政策

 1979年に開放政策がとられた頃から、中共は一人っ子政策を始めます。
 一人っ子政策は、国の行政指導に従って各地方が具体的な政策を決め実施するというものであって、都市部には厳しく農村部には寛容、かつ漢族には厳しく少数民族には寛容に実施されました。例えば、農村では1人目が女子の場合、2人目持つことが認められました。
 具体的には、一人っ子家庭に優遇や特典を与える、2人目を産んだ場合は出産費・産休期間の賃金カットなどの罰則が課せられるといった方法がとられました。
 こうした半ば強制的な一人っ子政策は世界で他に例を見ないものであり、発展途上国特有の人口爆発を中共が免れたという点では大成功をおさめました。

 他方、一人っ子政策がもたらした問題としては、
ア 人口の高齢化の急激な進展
イ 男女比のアンバランス(跡継ぎの男子を欲しがる農村部を中心に、女児の間引き・捨て子などの人権問題や嫁不足問題などとともに、男児の拉致・売買問題(注2)をもたらした)
ウ 「黒孩子」問題(第二子を出産しても戸籍に入れない黒孩子は教育・医療などの行政サービスも受けられない)
エ 「小皇帝」といわれる一人っ子に対する過保護問題
などがあります。 

 (注2)一人っ子政策の下での伝統的な男子選好、及び開放政策による繁栄が生んだ社会問題。統計は存在しないが、男児の拉致は頻繁に起こっている。男児は3,600米ドルで売買されているのに対し、女児は120??1,000米ドルの値しかついていない。(http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4101567.stm。12月17日アクセス)

その後支那の都市部は、一人っ子政策の存否にかかわらず、現在既に「先進国」的な少子化時代に突入しつつあります。
そこで、2002年に中共は「人口・計画出産法」を施行し、一人っ子政策や晩婚政策を法定化する一方、一人っ子政策の緩和を打ち出したところです。
 (以上、特に断っていない限りhttp://www.panda.hello-net.info/keyword/ha/1seisaku.htm(12月17日アクセス)による。)

(続く)