太田述正コラム#0574(2004.12.25)
<いかんともし難いロシア(続)>

<補足>
 前回の補足をしておきましょう。

ア ロシア国民の意識

 ロシアで1999年以降に実施された各種世論調査は、ロシア国民の驚くべき意識を浮き彫りにしています。
民主主義が好きな者はわずか22%、嫌いな者は53%。複数の政党による選挙が好ましいと答えた者はわずか15%、好ましくないと答えた者は52%。言論・報道・移動の自由は社会の安定より重要だとする者は何とたったの11%。マスメディアに対して検閲を復活すべきだとする者は76%。借金を踏み倒したり万引きをしたりすることは許されると考える者は半分以上もいます。管理職になりたいとする者は9%に過ぎず、絶対になりたくないとする者は63%。
ロシアに敵がいると答えた者は三分の二もおり、何を敵と考えるかについては、西側の産業・金融界、米国、NATO、ロシアのオリガーキーと銀行家、民主主義者、イスラム過激派の順でした。これらの敵に対抗するためになすべきことについては、78%がロシアが大国になることと答えました。人類の歴史上もっとも偉大な人物は誰だと思うかと聞いたところ、上位10人中9人まではロシア人であり、上位5人はピョートル大帝、レーニン、プーシキン、スターリン、そして宇宙飛行士のガガーリンでした。
74%がソ連が崩壊したことを残念に思っており、共産党がクーデターを行ったとしたら、23%は積極的に支援し、19%は協力し、27%は我慢し、16%は移住すると答え、抵抗すると答えた者は10%しかいませんでした。
あなたは欧州人ですかと問うと、常にそう思っていると答えた者はわずか12%で、全くそうは思っていないと答えた者は56%にのぼりました。
(以上、http://www.nytimes.com/cfr/international/20040501facomment_v83n3_pipes.html(5月30日アクセス)による。)

イ ロシアの人口減少

 1992年から2002年にかけて、ロシアの人口は1億4870万人から1億4400万人に減少したのですが、2050年には約1億人まで落ち込むと予想されています。
 とにかく、100人赤ちゃんが生まれるごとに173人の死者がでており、ロシア人男性の平均寿命はバングラデシュ・グァテマラ・ボスニアよりも低い59歳に下がってしまっています。
 その背景として、現在のロシア人が世界で一番酒を飲みタバコを吸い、自殺をしているほか、心臓病・結核・肝炎・梅毒や事故による死亡率も世界有数の高さであることが挙げられています。
 これに加えてエイズの問題があります。
 1999年まではロシアにはほとんどエイズの影さえありませんでした。
しかしこの年から、アフガニスタン製の液体ヘロインが入って来るようになり、若者達が注射器を共用してヘロインを打ち始めたことをきっかけに、エイズが爆発的な勢いで増えつつあります。
ロシアのように識字率が高く、医薬品産業を持ち、全家庭にテレビが普及している国で、エイズが爆発的に増えるなどということは本来考えられないことです。
それもこれも、プーチン政権がエイズ問題を放置しているからです。
 エイズ患者は現在30万人弱ですが、エイズ感染者は既に100万人に達していると見積もられており、人口が二倍でずっと長いエイズの歴史がある米国の感染者数を上回っています。
 そして、2010年には25万人から65万人のエイズによる死者が出ると予想されています。
2050年には約1億人までロシアの人口が落ち込むと予想されているところ、エイズ患者の増え方いかんによっては、それが更に落ち込んで約7,700万人になってしまうという、恐るべき可能性さえ取り沙汰されています。
(以上、http://books.guardian.co.uk/reviews/politicsphilosophyandsociety/0,6121,1143192,00.html(4月10日アクセス)及び(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A37342-2004Jun12?language=printer(6月13日アクセス)による。)

(完)