太田述正コラム#0579(2004.12.30)
<中台軍事バランス(その3)>
5 補論
(1)中国海軍の外洋海軍化?
先般の原子力潜水艦の日本領海侵犯事件もこれあり、沿岸海軍(coastal navy)であった中国海軍が本格的な外洋海軍(blue water navy)化を目指し、ミッドウェー・グアム・マリアナ諸島・南太平洋諸島・パラオ諸島へと連なる第二列島線を目指し、日本列島・台湾・フィリピン・インドネシアへと連なる第一列島線を突破しつつあり、最終的にはこれらの防衛線の向こうにいる米国をおびやかそうとしている、といった議論が盛んに行われています。
これは当時中国の中央軍事委員会副主席だった劉華清(Liu Huaqing)が1993年に確立した方針に従ったものである、というのです。
日本近海に中国海軍の海洋調査艦が出没した回数が、1999年には12回だったのが、2000年には18回になり、2001年には7回に減ったけれども、2002年には17回に戻り、昨年は8回に再び減ったけれども、今年に入ってからは5月までだけでも17回にのぼり、しかもこのうち14回は第一列島線を越えて第二列島線をうかがったものだった、この事実こそ、中国海軍が本格的な外洋海軍化に向けて着々と歩を進めている証拠だとされます。
これら海洋調査艦は、海流・海水温・塩分・深度等を調査していると考えられており、中国が海軍艦艇(潜水艦を含む)を有事に調査対象海域に展開させることを考えていることは明らかだ、というわけです。
(以上、http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2004/12/14/2003215081(12月15日アクセス)による。)
しかし、海洋調査艦がハワイ沖に出没した、とかインド洋に出没したというならともかく、日本周辺海域に出没しただけでは本格的な外洋海軍化の動きとは到底言えないでしょう。
中国海軍は、1970年代に国防予算の20%が割り当てられ、躍進しました。在来型潜水艦が35隻から100隻に増え、ミサイル搭載艦が20隻から200隻に増え、補給艦等も含め、外洋航行に適した大きな水上艦艇も建造されました。そして、攻撃型や核弾道弾搭載の原子力潜水艦の開発にも着手しました。
しかし、前出の劉華清が海軍司令官を務めた1980年代に入ると、海軍に割り当てられる国防費は減り、海軍の増勢は鈍化してしまいます。
本格的な外洋海軍を目指すのであれば、空母の保有に乗り出すべきところ、そんな様子も全くありません(注2)。
(以上、特に断っていない限りhttp://en.wikipedia.org/wiki/Chinese_aircraft_carrier及びhttp://en.wikipedia.org/wiki/Soviet_aircraft_carrier_Varyag(いずれも12月24日アクセス)による。)
(注2)ソ連ですら、その末期にかろうじて空母を一隻(Admiral Kuznetsov。58,000排水トン)保有しただけだ。(ロシアが引き続き保有。)その他のソ連の「空母」は、短距離/垂直離着陸機ないしヘリコプターを搭載できたにとどまる。(http://www.naval-technology.com/projects/kuznetsov/及びhttp://www.bharat-rakshak.com/NAVY/Gorshkov.html(いずれも12月25日アクセス))
ソ連崩壊後、建造中だったもう一隻の空母(Varyag。Kuznetsovと同じ型)は、ウクライナの所管となったが、建造が中止され、スクリューも舵も取り去られた船体だけとなっていたところ、マカオで海上カジノにすると言ってマカオの会社が1998年に購入し、実際には2000年から2002年にかけて大連まで曳航したので、中国が空母保有に向けて動き出した、と話題になったことがある。しかし、この船体を入手したのは、あくまでもお勉強目的だったようだ。
このように見てくると、中国海軍の本格的な外洋海軍化は、遠い将来はともかくとして、当面考えられない、と言ってよさそうです。
(続く)