太田述正コラム#0587(2005.1.7)
<脱北者問題(その3)>
4 二陣営に分裂した北東アジア
(1)北朝鮮体制転覆是認派
他方で、日本も大いに変わりました。
英国・米国・ドイツは年間約2万人もの政治難民を受け入れてきたというのに、日本は1999年16人・2000年22人・2001年26人・2002年14人・2003年10人と事実上政治難民に門戸を閉ざしてきました。
いくら何でもひどいというので、昨年5月に関係法律を改正し、政治難民認定基準を緩和したのですが、政治難民認定が顕著に増えたという話は聞こえてきません。
(以上、http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20040717/mng_____kakushin000.shtml(7月17日アクセス)による。)
それが、日本人拉致問題への関心の高まり、更には昨年10月の米国における北朝鮮人権法成立(コラム#535)を受け、日本でも同様の北朝鮮人権法をつくろうという動きが出てきています。少なくとも北朝鮮に関しては、政治難民を積極的に受け入れようという気運が高まっているといっていいでしょう(注10)(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200412/200412230043.html(12月24日アクセス)。
(注10)これは日本自身のためにもなる、ということを忘れてはならない。
国連開発計画(UNDP)は昨年7月、2004年版の「人間開発報告書」を発表したが、国民生活の豊かさを示す「人間開発指数」で、日本は5年連続して177カ国中9位という好成績を維持した(http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20040715AT3K1501P15072004.html。7月16日アクセス)。しかし、この報告書が、言語・信仰・民族の違いといった文化の多様性を尊重して少数者の政治的権利を向上させなければ持続的成長は実現できないとしていることからすれば、女性を差別し(政治難民を含む)移民を締め出したままでは、日本の将来は暗いからだ。
その真のねらいは、脱北者をどんどん増やすことで北朝鮮を体制崩壊に導き、もって北朝鮮の人権問題の抜本的解決を図ることです。
(2)北朝鮮体制維持派
韓国の状況は既にご説明したところですが、中国は北朝鮮政府との関係を重視して、脱北者を政治難民とは認めず、北朝鮮との協定に基づき、発見次第、経済的理由による不法入国者(注11)として北朝鮮に送り返してきました。
(注11)脱北の動機について、最近は、体制に対する不満で韓国を選ぶ「帰順」や生存のための「生計型脱北」が減り、よりよい生活を求めて韓国行きを希望するケースが多くなっていることは事実のようだ。
昨年からは、中国の脱北者への取り締まりが強化されています。
(以上、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%B1%E5%8C%97%E8%80%85及びhttp://nna.asia.ne.jp.edgesuite.net/free/mujin/focus/focus214.html(いずれも1月7日アクセス)による。)
また、ロシアはかねてから極東地区に北朝鮮の契約労働者を受け入れてきましたが、最近ロシアでは北朝鮮国民に対する反感が強まっており、韓国亡命を図る労働者に対して、北朝鮮・ロシア・韓国当局が「協力」して亡命を阻止しようとする傾向が顕著になってきています(http://www.nytimes.com/2005/01/03/international/europe/03korea.html?oref=login&pagewanted=print&position=。1月3日アクセス)。
こうして、今のところ自由だけれど人権意識は低い韓国と、自由のない国でありかつ人権意識に欠ける中国とロシアが、脱北者の抑制による北朝鮮体制の維持に向けて、不名誉な三国同盟を形成しつつあるのです。
(3)総括
このように見てくると、北東アジアにおいて、北朝鮮の体制転覆の是非をめぐって、これを是とする日米の二カ国と否とする韓中露の三カ国(北朝鮮自身を含めれば四カ国)に分裂し、新たな「冷戦」が始まっていると言っても過言ではありません(朝鮮日報上掲)。
5 終わりに
6カ国協議は、北朝鮮の核問題等に北東アジアに係わる5カ国が協力して対処しようというものですが、フランシス・フクヤマ(Francis Fukuyama)が、フォーリンアフェアーズの最新号に、この5カ国で北朝鮮以外の東アジアの諸問題に対処するスキームをつくるべきだと提言しています(http://www.nytimes.com/cfr/international/20050101faessay_v84n1_fukuyama.html?pagewanted=print&position=。1月7日アクセス)。
冷戦終焉後も自由・民主主義は依然アルカーイダ系テロリストを始めとする様々な敵の挑戦を受け続けており、その限りにおいてはフクヤマの「歴史の終わり」論の誤りは明白ですが、上記のフクヤマの提言も、私の6カ国協議米国の時間稼ぎ説を持ち出すまでもなく、全く的はずれであることはお分かりですね。
脱北者問題を通してまことに色々なことが見えてくるものです。
(誤って、「北朝鮮の窮状」シリーズと「脱北者問題」シリーズの脚注の番号を続けてしまいましたが、両者の密接な関係に鑑み、大目に見てください。)
(完)
<読者>
>このように見てくると、北東アジアにおいて、北朝鮮の体制転覆の是非をめぐって、これを是とする日米の二カ国と否とする韓中露の三カ国(北朝鮮自身を含めれば四カ国)に分裂し、新たな「冷戦」が始まっていると言っても過言ではありません(朝鮮日報上掲)。
「冷戦」と言うことは米国にとって韓国は同盟国ではなくなり「敵」になったということになりますね。
そうすると米韓軍事同盟は破棄されることになるのでしょうか。
また、すでに韓国には米国からイージス艦の提供、F??15K戦闘機の売却、さらにパトリオット・PAC3ミサイルの提供と、最新鋭兵器の提供を約束されているわけですが、これらは無効になるのでしょうか。
韓国型イージス艦「KDX-??」(7000トン級)1番艦が11日から建造に着手し、2008年ごろ、実戦配備される計画だ(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2004/11/11/20041111000025.html)。
<太田>
私が引用した朝鮮日報英語版記事(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200412/200412230043.html)が、’Is a "Defector-SuppressingCoalition" Forming on the Peninsula?’とか、’ An informal coalition between South Korea, North Korea and China to suppress the defectors・・・’とか書いていることと、同様引用したNYタイムス記事(http://www.nytimes.com/2005/01/03/international/europe/03korea.html?oref=login&pagewanted=print&position=)でロシアの北朝鮮defectorsに対する取り締まりが厳しくなったと紹介されていたこと等をとらえ、韓中露対日米の「冷戦」と表現したものであり、「」に入れたのは、本来の意味での冷戦ではないからです。
本当に韓国と米国が冷戦下にあれば、ご指摘のように、米国が韓国に最新兵器を供与するわけがありませんし、韓国がイラクに米英に次ぐ規模の兵力を派遣するはずもありません。
いずれにせよ、誤解を生むようでは、いささか表現が適切でなかったのかもしれませんね。