太田述正コラム#0593(2005.1.13)
<様変わりしたラテンアメリカ(その1)>
1 始めに
私は、ラテンアメリカはメキシコしか行ったことがありません。
土地勘のない場所については、コラムを書くことをできるだけ控える、という方針に反し、アルゼンチンにちょっと触れたことがあります(コラム#12)し、ラテンアメリカとは何かというシリーズ(コラム#131、146??149)を書いたこともありました。
(ハイチ(コラム#279、280)やキューバ(コラム#329、330)についても採り上げたことがありますが、通常カリブ海諸国や南米ギニア諸国等、単純な旧スペイン・ポルトガル領諸国以外の諸国はラテンアメリカに含めないようです。)
今回もいささか躊躇しつつ、ラテンアメリカの最新状況をとりあげることにしました。
2 経済
(1)全般
2004年にはラテンアメリカ16カ国は、一カ国もマイナス成長の国がなかったばかりか、平均5.5%の経済成長率を達成しました。この25年間で最も高い経済成長率です。2003年の経済成長率は1.9%だったことを思えば、いかにこれが画期的なことであったか分かります。2005年においても4%程度の経済成長率が見込まれており、ラテンアメリカが今後力強い経済成長を続ける可能性が出てきました(注1)。
(注1)私はラテンアメリカを欧州文明に属すると考えている(上記コラム#131、146??149)ところ、なにゆえ旧宗主国たるスペインやポルトガルに比べてかくも経済発展が遅れたのだろうか。これは極めて興味深いテーマだが、別の機会に譲りたい。
2004年のラテンアメリカ経済が好調であった理由としては、市場重視政策・ラテンアメリカ産品の価格高騰・米国や中国による活発な投資、が挙げられています。
(以上、http://www.csmonitor.com/2005/0106/p07s01-woam.html(1月6日アクセス)による。)
いくつかの国を個別に見てみましょう。
(2)アルゼンチン
一番驚きなのがアルゼンチンです。
IMFの指導に従い財政支出を削減した結果1990年代末から未曾有の経済危機に陥ったアルゼンチンが、2002年に1,000億ドルという世界史上最大の債務返済不能を引き起こした(コラム#12参照)のは記憶に新しいところですが、それからの二年間、8.7%と8.2%という高度成長を達成し、経済危機前の一人当たり所得水準を回復したのですから。
一体何がこのような奇跡をもたらしたのかについては、アルゼンチン産品の価格高騰がプラスに働いたことは間違いないのですが、決定的な説明はいまだなされていません。
(以上、csmonitor上掲及びhttp://www.nytimes.com/2004/12/26/international/americas/26argent.html?ei=5094&en=4e46655974203920&hp=&ex=1104037200&partner=homepage&pagewanted=print&position=(12月26日アクセス)による。)
(3)ブラジル
ブラジルの2003年と2004年の経済成長率は、それぞれ0.6%と5.2%ですが、この国は世界の穀倉へと変貌を遂げつつあります。また、ブラジルほどではないとはいえ、アルゼンチン・ボリビア・パラグワイ・ウルグワイでも農業生産は伸びています。他方昨年、米国は農業輸入国に転落してしまいました。アメリカ大陸で巨大な地殻変動が起きつつあります。
ブラジルの農業生産が躍進したのは、かつては痩せた土地と思われていた熱帯やサバンナ地帯の土壌改良技術が生まれたことと市場重視政策のおかげだと言われています。
ブラジルは既に鶏肉・オレンジジュース・砂糖・コーヒー・タバコの世界一の輸出国ですが、昨年牛肉の輸出も世界一になり、近々大豆の輸出でも世界一になりそうです。しかも、次第に輸出されるものが加工品にシフトしてきています。
1960年代には、ブラジルは輸出の60%をコーヒーに頼るモノカルチャー経済だったのですから、隔世の感があります。
(以上、csmonitor上掲及びhttp://www.nytimes.com/2004/12/12/international/americas/12brazil.html?ei=5070&en=ec1ebb7ced212dd4&ex=1105419600&pagewanted=print&position=(1月10日アクセス)による。)
(3)メキシコ
1994年に成立した北米自由貿易協定によって、メキシコへの投資が大幅に増え、メキシコの工業生産は飛躍し、メキシコは名実ともに工業製品輸出国になりました。
メキシコの2003年と2004年の経済成長率は、それぞれ1.2%と4.1%でしたが、昨年の加速は、世界第五位の石油生産国メキシコが、国際石油価格の上昇の恩恵をうけたからです。
今、メキシコは自動車ブームであり、コンパクトカーやサブコンパクトカー中心ではありますが、世界のありとあらゆる自動車メーカーがメキシコ内に工場を持ち、売りまくっています。
まだまだメキシコは貧しいし、失業率も高いのですが、巨大な隣国の陰でくすぶってきた国が急速に変貌を遂げつつあります。
(以上、csmonitor上掲及びhttp://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fi-mexcars26dec26,1,1582475,print.story?coll=la-headlines-world(12月27日アクセス)による。)
(続く)