太田述正コラム#0606(2005.1.26)
<ブッシュの就任演説(その3)>

 (3)ライス発言
 ブッシュ演説の中ではTyrranyとしてしか登場しない「敵」を具体的に例示したのが、演説より前に行われた自分の上院就任審査の席上ライスが行った発言です。
 ライスは専制の前線(outposts of tyranny)として、ベラルーシ・ビルマ・キューバ・イラン・北朝鮮・ジンバブエを挙げています(http://news.ft.com/cms/s/73be8550-6b25-11d9-9357-00000e2511c8.html。1月21日アクセス)。
しかし、これが包括的な「自由の敵」のリストであるはずはありません。
outpostという言葉からして本丸(中国やロシア?)は別にあることを匂わせていますし、どう考えても欧州・インド亜大陸・米州・中近東・アジア・アフリカという六つの大陸ないし地域から一つずつ手頃な国をピックアップしただけだとしか考えられないからです(注4)。

 (注4)最後の点は、日本の朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」が指摘している(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200501/200501230019.html。1月24日アクセス)。なかなか鋭い、と誉めておこう。

4 補論・・どうして第二フェーズから第三フェーズへ?

 (1)疑問
 それにしても、一体全体どうしてブッシュは第二フェーズから第三フェーズへと死の跳躍をした、・・・訂正、百尺竿頭一歩を進めたのでしょうか。
 ブッシュの第二フェーズが極めて不人気であったこと、そして、知恵を付けた人物が存在するであろうこと、が取り沙汰されています。

(2)ブッシュの不人気
 CSモニターの記事(http://www.csmonitor.com/2005/0121/p07s02-wosc.html。1月23日アクセス)に添付された図を見ると、ブッシュが世界中でどんなに嫌われているかが改めて良く分かります。
 この図は世界21カ国から抽出された2万2,000人弱を対象に、「ブッシュ大統領は世界の平和と安全のためにプラスかマイナスか」と聞いた結果を示しており、プラスと答えた者がマイナスと答えた者を上回った国は、この22カ国中わずか3カ国(印・ポーランド・比)しかありません。
ちなみに、マイナスと答えた者の割合が少ない国から多い国へと順番に並べると、以上3カ国に引き続き、露・日・韓・伊・中・南ア・墨・豪・チリ・英・レバノン・加・インドネシア・仏・独・ブラジル・アルゼンチン・土、であり、トルコにおいてさえこれほどブッシュは不人気なのですから、アラブ諸国での不人気ぶりは想像を絶するものがあるに違いありません。
 これでは、ブッシュならずとも、抜本的な政策変更を迫られることでしょう。

 (3)シャランスキー
 それにしてもブッシュドクトリンは、米国の伝統的な考え方に回帰するように見えて、実は未踏の道を切り開くに等しい新しい政策なのですから、側近の意見を徴するだけでは、ブッシュは容易に採択の決断ができなかったに相違ありません。
 ブッシュの決断のだめ押しをしたのは、イスラエルの政治家シャランスキー(Natan Sharansky。1948年??)(注5)、より正確にはシャランスキーの著書The Case for Democracy、であったと言われています。

(注5)ロシア名アナトリー(Anatoly)。ウクライナで生まれ、モスクワの大学で数学を専攻。サハロフ(Andrei Sakharov)博士の英語通訳として人権問題に携わり始め、後にソ連のユダヤ人反体制運動の中心人物となる。1973年にイスラエルへの移住をソ連政府に申請して拒絶され、1978年から反逆罪とスパイ罪により投獄され、更にシベリアのラーゲリ送りとなる。1986年に東西間の囚人交換の一環として釈放され、イスラエルに英雄として移住する。そしてソ連出身のユダヤ人の政党を創設し、国会議員となり、何度も大臣を務めて現在に至る。(http://www.jewishvirtuallibrary.org/jsource/biography/sharansky.html。1月24日アクセス)

(以下、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200501/200501210029.html及びhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/4195303.stm(どちらも1月22日アクセス)による。)
 ブッシュは、会う人ごとにこの本を「私の考えが要約されている」から読むようにと勧めているということですし、いかにもブッシュに忠実なライスらしく、彼女は就任審査の際、「シャランスキーの言う「街の広場(town square)のテスト」(注6)を全世界で行うべきだ」と述べたところです。

 (注6)The Case for Democracyには、「もし人が街の広場の真ん中に歩いて行って彼または彼女の意見を、逮捕・投獄・物理的危害の恐れなくして表明できるのであれば、その人は恐怖の社会ではなく自由の社会に生きている。われわれは「恐怖の」社会に住んでいるすべての人々が最終的に自由を勝ち取るまでは休むわけにはいかない。」とある。

(完)