太田述正コラム#0625(2005.2.11)
<米国とは何か(完結編)(その6)>
5 終わりに
(1)二つの米国と米国の戦争観
要するに米国においては、キリスト教原理主義的アングロサクソンとScots-Irishという二つの人々に由来する二つのアイデンティティーが並存しているわけですが、そのどちらも、われわれ外国人にとっては、甚だ、はた迷惑な代物だと言えるでしょう。
どちらのアイデンティティーの担い手も選民思想を抱いており、前者はあらゆる機会をとらえてアングロサクソン文明を外国人に移植しようとしてきたし、後者は、普段は外国人に全く関心がなく無視していますが、気に入らないことがあると無理矢理言うことをきかそうとしてきたからです。しかも、両者ともホンネでは戦争が大好き(注14)なだけに、「文明を移植」しようとする場合も「言うことをきかそうとする」場合も、武力に訴えることを躊躇しませんでした(注15)。
(以上、http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A11865-2004Nov25?language=printer(2004年11月27日アクセス)を参考にした。)
(注14)対イラク戦争及びイラクの戦後統治に第1海兵師団長として関わった米海兵隊中将が、その経験を踏まえ、「実際、戦争というやつはとても楽しいものだ。阿鼻叫喚の世界だが、私は喧嘩が好きでね。人間を撃つのは楽しいものだよ。(Actually, it’s quite a lot of fun to fight; you know, it’s a hell of a hoot. I like brawling; it’s fun to shoot some people.)」と米国で聴衆の前で語り、実質的に何のおとがめもなかった(http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/4234751.stm。2月4日アクセス)ことを思い出して欲しい。
(注15)2001年の9.11同時多発テロは、前者からはテロと関係ありそうな国を体制変革しなければという決意を生み、後者からはテロリストに対する憎しみを噴出させ、その結果、米国と中東がどんなに大きく様変わりしたかを、われわれは知っている。
なお前者は、必ず勝てるとふんだ相手とだけしかことを構えず、しかも一旦開戦の決意を固めたら、あらゆる挑発行為を行って相手方に先制攻撃をさせ、その上で美しい理念を掲げつつ、自分は正当防衛のためやむを得ず反撃した、という形にすることにこだわる、というひねくれ者です。(この形作りに失敗した場合は、その戦争については極力語らないようにしてきたことも含め、既に触れたところだ。)
前者と後者は、同じ米国民として、行動をともにするのが通例であり、しかも、前者が米国の政権を掌握していることが多かったため、外国人の目からは、前者の戦争のやり方が米国の戦争のやり方であると一般に受け止められています(注16)。
(注16)例外的に、前者と後者が戦ったことがある。南北戦争がそうだ。傑作なことに、そんな時まで前者は、後者を追い込み、後者に先制攻撃させ、奴隷解放という理念を掲げつつ、「反撃」して後者を叩き伏せる、という定番の戦争のやり方をしたものだ。
米国のこの戦争のやり方は、経済封鎖からハルノートに至るありとあらゆる挑発行為を米国から受け、追いつめられて真珠湾攻撃という形で対米開戦をさせられた上、敗戦と占領という憂き目を見た日本、の国民であるわれわれが熟知しているところです。
(2)覇権国米国
今から百年前の1904年12月、セオドア・ローズベルトは、「モンロー・ドクトリンを遵守してきた米国は、必ずしも望むところではないものの、西半球において、悪いことをしたり統治能力のない国が出てきた場合は、国際警察力を行使することになろう」と議会で演説し(http://www.uiowa.edu/~c030162/Common/Handouts/POTUS/TRoos.html。2月7日アクセス)、以後、カリブ海域を中心にこの演説を実地に移し始めます。(これをモンロー・ドクトリンのRoosevelt Collorary という。)
ここに、米国は南北アメリカ大陸を、名実ともに米国の勢力圏としたのでした。
1898年にハワイを併合するとともに米西戦争の結果フィリピンを領有した米国は、勢力圏を更に太平洋全域及び極東に拡大しようとして、日本と衝突し、第二次世界大戦で日本を破ってからは、英帝国の瓦解を奇貨として、勢力圏を全世界に広げることを目指しました。(戦後の米国の太平洋軍等の各地域統合軍が、陸地を含め、全世界を分割して管轄としてきたことを想起せよ。)
米国に対する最後の大抵抗勢力であったソ連との冷戦に、軍拡競争によって勝利した米国は、ソ連が解体した1991年、ついにその目標をほぼ達成し、米国による全世界の領土と財貨のコントロールがほぼここに成就します。
そして米国は、21世紀に入ってから、9.11同時多発テロを契機に、アングロサクソン文明の全世界への普及を標榜しつつ、他に抜きん出た軍事力を最大の手段として、全世界の領土と財貨を完全にコントロールすることを目指し始めたのでした。
われわれは、まさにこのような時代に生きているのです。
(完)
<読者>
「米国とは何か」(完結編)は素晴らしかったと思っています。
南北戦争の真の原因については心得ていたつもりでいましたが、それに更にScots-Irishからの視点を加えた論考は初めてで、そしてそれはとても納得が行きました。
南北戦争にかかわらず、アメリカの全ての事象に対してもScots-Irish面の考察を入れることはとても大切ですね。
「米国とは何か」(完結編)は久しぶりに大いに頷いた Article でした。