太田述正コラム#0640(2005.2.24)
<ブッシュの一般教書演説と北朝鮮(続)(その1)>
1 二期目のブッシュの北朝鮮政策
私は以前(コラム#617で)、ブッシュが一般教書演説で、「アジア諸国の政府と協力して北朝鮮に対し核への野望を放棄するよう説得を続けている」と述べつつも、米国の主敵が四つあってその筆頭は北朝鮮であり、次いでアルカーイダであり、ずっと下がってイランとシリアだ、と宣言した、と指摘したところですが、ブッシュ演説についてのこのような理解が正しいことをもう少し説明しておきたいと思います。
二月の上旬に米国で行われたギャラップの世論調査によれば、米国にとって最も危険な国は?という問に対し、一番答えが多かったのはイラクと北朝鮮で、どちらも22%の人が最も危険な国である、と答えました。
ちなみに、イランという答えは14%、中国という答えは10%でした。
2001年における同じ世論調査においては、38%がイラクが最も危険な敵だと答え、北朝鮮だと答えた人は2%に過ぎなかったことを思えば、米国の世論に地殻変動的な変化が起こっている、と言えるでしょう。
(以上、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200502/200502170021.html(2月18日アクセス)による。)
ただし、二月の中旬に米国で行われたゾグビー・インターナショナルの世論調査によれば、北朝鮮への侵攻(invasion)に賛成する者は18%に過ぎず、反対が68%もあります。ちなみに、イランへの侵攻に賛成する人は20%、反対は68%でした。(なお、対イラク戦争への賛成は52%、反対は47%で、イラク暫定議会選挙直前に世論調査が行われた時の賛成46%、反対52%に比べて、賛成が若干増えた。)
(以上、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200502/200502220025.html(2月23日アクセス)による。)
以上から、現実に米国等による「侵攻」が続いているイラクと同程度に北朝鮮は米国民にから危険な敵と認識されていることと、それにもかかわらず、米国民はイランに対する以上に北朝鮮に対する侵攻に慎重であることが分かります。
イランや北朝鮮への侵攻に慎重なのは、米国民が、イラクへの侵攻の人的・金銭的コストの大きさに辟易している上に、イランや北朝鮮に侵攻するのは(イランは人口・領土が大きく北朝鮮は核爆弾を持っている等、)イラクへの侵攻に比べてより大きなコストがかかる恐れがあると思っているからでしょう。(ただし、「侵攻」には慎重でも、核爆弾貯蔵施設や核施設の破壊だけを目的とした「攻撃(attack)」については、それほど躊躇しないのではないか。)
一般教書演説で打ち出されたブッシュの北朝鮮政策・・北朝鮮は米国の主敵である。ただし、外交手段で核開発を断念させる(注1)・・は、このような米国民の世論を忠実に踏まえたものである、と考えられるのです。
(注1)だからと言って、ブッシュは軍事的手段を放擲したわけではない。訪欧中のブッシュは、ブラッセルで22日、「米国がイランを攻撃(attack)しようとしているという話は全くばかげている。」と述べつつ、「もとより、いかなる選択肢も排除するものではない。」とつけ加えている。(「イラン」を「北朝鮮」に置き換えてみよ。)(http://www.cnn.com/2005/WORLD/europe/02/22/bush.iran.ap/。2月24日アクセス)
そもそも、米国は自由・民主主義国家の最たるものの一つであり、しかも、ことのほか言論を重視するお国柄なのですから、米国政府が特定のイッシューについてどう考え何をしようとしているかは、政府要人の発言や政府ないし政府関係機関が公表する文書を読めば、ほぼ間違いなく分かるものなのです。
しかし、米国の政府要人の発言や政府等の公表文書でも、外交的配慮等から、直截的な表現が避けられていることがあります。
今回のブッシュの一般教書演説でも、北朝鮮は米国の主敵である、と直截的に言い切ってはいません。そこで、私が(コラム#617で)行ったようなやり方で、行間を読む作業が必要になります。また、この作業に当たっては、米国の世論の動向を見極め、これを踏まえて行うことが肝要なのです(注2)。
(注2)もとより、このような作業は言うは易くして行うは難いことは否定できない。今回、日本のマスコミや国際問題評論家の多くが、ブッシュの対北朝鮮政策が軟化したと誤って受け止めたことはいつものことで驚かないが、英ガーディアンまでが読み間違いの論説を掲げた(http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1405687,00.html。2月5日アクセス)のには驚いた。
ちなみに、米国の対北朝鮮政策についての北朝鮮の分析はまことに的確だ。北朝鮮は、ブッシュの(二期目の)就任演説及び一般教書演説並びにライスの議会証言から、「米国は、核攻撃するぞと脅しつつ、いかなる犠牲を払ってでも北朝鮮の政治体制を転覆しようとしていることを明らかにした」と判断せざるを得ない、と10日の国営通信社(KCNA news agency)の声明の中で指摘し、米国がこのような態度を改めない限り、六カ国協議や米朝協議には応じられない、とした。(http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4252515.stm。2月11日アクセス)
BBCは、北朝鮮がこのような結論に達する直接的契機となったのは、グリーンらの日韓中参加国訪問(コラム#617)だったに違いない、と指摘している(http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4253563.stm。2月11日アクセス)。
(続く)