太田述正コラム#0664(2005.3.19)
<反国家分裂法の採択をめぐって(続)>
1 「味方」探しに必死の中共
中共は、反国家分裂法に好意的な国々等の名前を血眼になって探し回っており、新華社や人民日報は、そのような国名等を連日列記したり追記したりしています。
ロシアについては、既に(コラム#661で)ご紹介したところですが、それに加えて、パキスタン・シリア・ベラルーシ・マケドニア・北朝鮮・カンボディア・シリア・アフリカ連合・アゼルバイジャン・ウズベキスタン・キューバ・ベネズエラ・セルビア/モンテネグロ・エジプト・ラオス・ミャンマー・ボスニア/ヘルツェゴビナ・ネパール・キルギスタン・トルクメニスタン・マダガスカル・ガイアナ・セントルシア・キューバ、の各国等が挙げられています。
(以上、http://www.csmonitor.com/2005/0315/dailyUpdate.html、http://j.peopledaily.com.cn/2005/03/15/jp20050315_48382.html(以上3月16日アクセス)、http://j.peopledaily.com.cn/2005/03/16/jp20050316_48411.html(3月17日アクセス)、http://j.peopledaily.com.cn/2005/03/17/jp20050317_48461.html(3月18日アクセス)による。)
これら「錚々たる」諸国等はともかくとして、大変気になるのは、このほかフランスが挙げられていることです。
人民日報は、「フランス外務省の副報道官は15日、「フランスは『反国家分裂法』の中で、中国が対話を優先して両岸交流を発展させたいとしている点に注目、重視している。このため、フランスは他のパートナー国家と同様、(中国本土と台湾)両岸が春節(旧正月)に行った建設的措置(直行チャーター便運航)に歓迎の意を表す」と表明した」と報じています(人民日報3/17上掲)。
これは、フランス外務省の副報道官発言をつまみぐいして報道したかねじまげて報道した可能性があると思いますが、他のメディアで何も報じられていないので不明です。しかし、副報道官が、少なくとも、中共に配慮した発言を行ったことは間違いないようです。
いずれにせよこれは、反国家分裂法採択を踏まえたEUの意向、すなわちEU「外相」のソラナ(Javier Solana)氏の「<対中武器輸出禁止措置を解除する>という政治的意図は変わっていないが、今年の前半に解除する決定を行えるかどうかは保証の限りではなくなった」との言明(http://news.ft.com/cms/s/1e9d53e6-9710-11d9-9f01-00000e2511c8.html。3月18日アクセス)とは明白に温度差があります。
フランスは、たとえ一国だけでも中共との提携路線を歩む(コラム#654)、ということなのでしょう。
2 トーンダウンにも必死の中共
中共の温家宝首相は、全人代が反国家分裂法を採択して閉幕した一時間後に行われた記者会見(TV中継された)において、1861年に米国がやはり国家分裂を禁ずる法律を採択している(注)ことに言及した上で、中共の反国家分裂法が規定するところの非平和的手段(武力)を行使するのは最後の手段であり、この法律が、(台湾との)経済的・文化的紐帯を緊密化することを謳っている点に注意を喚起しました(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A34319-2005Mar14?language=printer(3月15日アクセス)及びhttp://www.nytimes.com/2005/03/14/international/asia/14beijing.html?pagewanted=print&position=(3月16日アクセス))。
(注)胡錦涛も台湾問題に関連して、南部諸州の分裂を許さなかった米国の例を持ち出したことがある(http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2004/09/30/2003204986。10月1日アクセス)。しかし、これは一世紀半近く前の話であり、その後、米国を唯一の例外として、アングロサクソン諸国では、国家「分裂」は許されるに至っており、例えばスコットランドもスコットランド内で意見の集約さえできれば、英国から分離独立できる(典拠省略)、という事実を胡も温もお忘れらしい。
なお、米国の南部諸州が米国から分離独立しようとしたケースと、台湾問題とはそもそも全く性格を異にする。台湾は法的に支那の一部ではない(コラム#182、188、192、200)からだ。
いかに中共がこの法律のトーンダウンに必死であるかは、その後人民日報等に掲載されたこの記者会見録において、温首相の発言に検閲の手が入り、南北戦争の前に米国で採択された法律に言及した際の以下のくだりが削除されていることからも明らかです。
「<この法律が採択された>後、北部と南部の間で戦争が始まった。われわれはこんなことになるのは望んでいない。われわれはこんなことになるのは望んでいない。」
NYタイムスの記事は、このくだりが削除されたのは、かねてから反国家分裂法は、あくまでも台湾海峡の平和を確保するための条件を整えるためのものだ、としてきた中共の公式見解と食い違っているからだろうと指摘しています。(ただし、戦争になることを厭うた首相の発言が、台湾との統一にはいかなる犠牲も払う、としてきた中共の公式見解に背馳するからだろうとする見方もあると指摘している。)
そしてこの記事は、中共での序列三番目の首脳の発言・・しかも同時中継された発言・・すら検閲される中共とは一体いかなる国か、と締めくくっています。
(以上、http://www.nytimes.com/2005/03/16/international/asia/16china.html?pagewanted=print&position=。3月17日アクセス)
3中共への提言
反国家分裂法以外に中共にはとりうる方策がなかったのでしょうか。
長々とした訳の分からぬ政策提言がフォーリンアフェアーズ最新号の論考に載っています(http://www.nytimes.com/cfr/international/20050301faessay_v84n2_lieberthal.html?pagewanted=print&position=(3月16日アクセス)。暇のある人は参照されたい)が、私がかねてから(コラム#35)主張しているように、中共自身が台湾並の法治と民主主義に一歩でも二歩でも近づくことによって、台湾の人々がおしなべて抱いているところの中共に対する軽侮と嫌悪の念の解消を図ることこそ、唯一最善の方策なのです。もとより、そうしたところで台湾の人々が中共との統一に首を縦に振るとは限りませんが・・。
今からでも遅くありません。反国家分裂法採択によるイメージダウンから少しでも回復すべく、中共は例えば、一国二制度の対象たる香港の民主化、すなわち香港の主席公選制の導入、を真剣に考慮すべき(http://www.guardian.co.uk/comment/story/0,3604,1440526,00.html。3月18日アクセス)なのです。
<読者>
中国,フランスそしてイラン(ペルシャ)もそうかもしれませんが,中華意識の残滓があるのかもしれません。海を隔てた隣国には鼻持ちならない感情が沸いてきます。中国とフランスは親和性というか類似性があると思いますがいかがでしょうか。
フランスの隣国である仏語圏ベルギー,中国の隣国である朝鮮等は光栄ある大国に取り込まれ民族意識も文化的にも同化されているのかも知れません。中国語圏台湾と仏語圏カナダとの対比はおもしろいかもしれません。
太田様の視点を楽しみにしております。