太田述正コラム#0666(2005.3.21)
<パレスティナ紛争終焉へ>
1 始めに
一年半近く前(2003.10.14)に「私は・・北朝鮮情勢とパレスティナ情勢がシンクロナイズしてきていることに着目し、両者の動向をいつも比較対照している・・北朝鮮もパレスティナも、どちらも圧倒的に優勢な敵・・北朝鮮にとっては米国、パレスティナにとってはイスラエル(その背後に米国がいる)・・にすくみあがり、白旗をあげた上で、現在「降伏」条件のつめをしているが、「降伏」条件の具体的な提示ができなくて困り果てている状況である」(コラム#170)と申し上げたところです。
このうちパレスティナについては、昨年11月11日の(イスラエルにとっての仇敵)アラファト(Yasser Arafat)の死去が、「降伏」条件をめぐってのイスラエルとの直接対話を可能にしたことから、紛争終焉への明るい展望が開けています。
2 パレスティナ紛争終焉へ
昨年12月初頭に実施された世論調査によれば、その半年前に実施された世論調査と比べて、イスラエル政府とパレスティナ当局(Palestinian Authority。自治政府)の間の交渉再開を予期する者がイスラエルで63%から76%へ、パレスティナで72%から83%に上昇し、パレスティナにおいて、イスラエル内の目標に対する爆弾テロがパレスティナの利益に反するとする者が26.9%から52%に上昇し、パレスティナ当局の中核であるファタが信頼できるとする者が26.4%から40%に上昇する一方で、過激派であるハマス(Hamas)が信頼できるとする者は21.7%から18.6%に低下しました。
(以上、http://www.csmonitor.com/2004/1214/p01s03-wome.html(2004年12月14日アクセス)による。)
今年の1月9日の選挙でアッバス(Mahmoud Abbas。通称Abu Mazen)氏がパレスティナ当局の議長選挙に当選(http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/maichuu/archive/news/2005/01/20050112kei00t00t002000c.html。3月21日アクセス)し、2月8日にはエジプトのシャルムエルシェイクでイスラエルのシャロン(Ariel Sharon)首相とパレスティナのアッバス議長との間で初の首脳会談が行われ(http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/kokusai/20050202/20050202a3580.html。3月21日アクセス)(注1)、ついに両者間の本格的な交渉が始まったのです。
(注1)イスラエル首相がパレスティナ当局議長と会談するのは、アル・アクサ・インティファーダ(コラム#235)が始まった直後の2000年10月以来初めて。
更に3月17日には、カイロ郊外での3日間の会議(注2)の後、パレスティナ当局がハマス、イスラム聖戦機構(Islamic Jihad)、アル・アクサ殉教者旅団(al-Aqsa Martyrs’ Brigades)等のパレスティナのイスラム原理主義過激派諸派から、最大限今年末までの対イスラエル「停戦」への合意をかちとりました。見返りは、イスラエルが約束したところの、イスラエル軍のヨルダン川西岸諸都市からの撤退とパレスティナ過激派諸派の囚人の解放です。
(注2)このところのエジプトのムバラク(Hosni Mubarak)政権のパレスティナ和平への「貢献」ぶりは大変なものだ。エジプトは毎年20億米ドルもの援助を米国からもらっているが、本年1月の(二期目の)就任演説でブッシュ米大統領がサウディとともにエジプトに民主化を促した(コラム#617)こと、1月末に米国務省がエジプトの野党党首の投獄を非難したこと、ライス新米国務長官のエジプト訪問がドタキャンされたこと、等の米国から民主化圧力をかわすため、ムバラクは、2月26日にエジプトの大統領選挙への複数候補の擁立を認めた(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A56470-2005Feb26?language=printer。2月27日アクセス)一方で、米国の覚えがめでたくなるパレスティナ和平ために汗を流して見せた、というところだろう。
同時に、これら過激派諸派は、自分達のPLO(Palestine Liberation Organization)への「吸収」のためのPLOの「再建」についても合意した、と報じられています。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A43342-2005Mar17?language=printer(3月18日アクセス)による。)
3 エピローグ
上記合意直後にFTに掲載された、イスラエル人記者によるアル・アクサ殉教者旅団のルポは、「戦闘」を封じられたパレスティナ過激派が、早くも寄付等の資金源の減少に直面し、目的意識も喪失してとまどっている姿を的確に描写しています(http://news.ft.com/cms/s/d62aa0e6-95e8-11d9-ae9d-00000e2511c8.html。3月20日アクセス)。
戦後一貫して欧米メディアのペット・サブジェクトとして毎日のように報道されてきたパレスティナ紛争の終わりの始まりに直面し、FT自身が感慨を込めてこの長文のルポを掲載した、というのがこのルポの私の読後感です。