太田述正コラム#0669(2005.3.24)
<選挙後のイラク(その1)>
1 昨年10月時点の分析
イラク情勢に関する、昨年10月時点の私の分析は以下の通りでした。
(1)サドル派は選挙に参加する
「サドル師・・が、・・シーア派民兵を武装蜂起させたのは、米軍等を駆逐し、政権を奪取することが目的ではなかった。彼の武装蜂起は、反米軍感情の燃えさかっているイラクの人々に受けることをねらった、来年の選挙向けの計算された事前運動だった・・。」(コラム#500)
(2)スンニ派地区だけが荒れ続けている
「イラクには不穏分子として、上記のサドル派民兵(ア)のほか、アルカーイダ系「戦士」(ザルカウィ(al-Zarqawi)系「戦士」と言うべきか) (イ)、旧体制派ゲリラ(ウ)、不穏市民グループ(エ)、そして犯罪諸グループ(オ)が存在していますが、(イ)??(エ)の三つはいずれも主としてスンニ派地区、就中スンニ・トライアングル(Sunni triangle)、で活動しています。」(コラム#482)「このようにスンニ派地区が「荒れる」理由は・・スンニ派の人々はフセイン政権の下で、少数派であるにもかかわらず、スンニ派であるフセイン大統領のおかげで、多数派のシーア派と(スンニ派と同規模の)少数派であるクルド人双方の上に君臨していたのに、今ではクルド人並の少数派の地位に甘んじなければならなくなったからです。・・スンニ派の多くの人々にしてみれば、どうあがこうと負け犬になるという結果が見えている選挙になど、夢も希望も抱けるわけがないのです。だからこそスンニ派の少なからぬ人々は、米軍を始めとする多国籍軍やイラク政府、更にこれらに協力するイラク人に対して八つ当たりしてきている、ということです。」(コラム#483)
(3)しかしそのスンニ派地区も早晩平穏化する
「このように現在のイラクが「荒れる」スンニ派地区と平穏なシーア派地区・クルド人地区との二つに大きく分かれつつあること、シーア派地区とクルド人地区は離れていること、かつまたクルド人にはかねてより独立願望があることから、イラクが三つの地域に分裂するのは必至だと考える人が少なからず出てきました。しかし、私はそうは考えていません。」(コラム#484)「<なぜなら>、現在荒れに荒れているスンニ派地区も、必ず早晩平穏化すると思うからです。」(コラム#492)
(4)選挙は平穏に実施される
「スンニ派地区の沈静化さえできれば、選挙は成功裏に実施されると思われます。」(コラム#493)「選挙がおおむね平穏に実施されるであろう理由を列挙してお<きましょう>。a 米軍によるスンニ派地区平定作戦<が>進展する、b イラク治安部隊<が>整備され<る>。c ・・イラクのような所では、外国からの補給路が確保できた南ベトナムのゲリラのケースと異なり、不穏分子側は早晩武器弾薬等が枯渇し、「ゲリラ」戦を継続することができなくなる・・d アルカーイダ系「戦士」とイラク国内系スンニ派不穏分子との内ゲバ<が起きる>」(コラム#499)
(5)選挙後も暫定政府が事実上継続する
「来るべき来年1月末の選挙は、米国の息のかかった現在のイラク暫定政府がそのままの姿でイラク新政府へと横滑りすることをねらったしくみになっています。実際、そうなる可能性は大きいと言えます。」(コラム#499)
2 上記分析の評価
現時点に立って、これらの分析の評価をしてみましょう。
(1)サドル派は選挙に参加する
結局、サドル派は、派としては選挙には参加しませんでした。しかし、選挙をボイコットしたわけでもなく、サドル派から10数名がバラバラに選挙に立候補したと見られています(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A31170-2005Jan23?language=printer。1月25日アクセス)。
これは、選挙の結果生まれるイラク新政府が機能しないであろうことを「期待」し、その場合、フリーな立場でシーア派内においてキャスティングボートを握ろうという戦略でしょう。
(2)スンニ派地区だけが荒れ続けている
その通りなのですが、「スンニ派の少なからぬ人々」が「多国籍軍やイラク政府、更にこれらに協力するイラク人に対」する「八つ当たり」をどうしてかくも執拗に続けることができるのか、その理由が次第に明らかになってきました。
まず、「スンニ派の少なからぬ人々」の中核は「旧体制派ゲリラ」であるということです。
その「旧体制派ゲリラ」が片や外国人の「アルカーイダ系「戦士」」に無償で自爆テロを行わせ(これは私見)、片やカネを払って、(治安部隊員やバース党員であった者が多かったために失業している者も多い)イラクのスンニ派の「不穏市民グループ」ないし「犯罪諸グループ」にテロを行わせている(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-intel22mar22,1,6602284,print.story?coll=la-headlines-world。3月23日アクセス)のです。
遺憾ながら、「アルカーイダ系「戦士」」も「不穏市民グループ」ないし「犯罪諸グループ」も、なり手がいくらでもいるという状況が続いています。
「旧体制派ゲリラ」の士気が高いように見える理由も分かってきました。
アドレナリン、アンフェタミン、クラック等を広汎に用いており(注1)、そのおかげで彼らは、特に服用(注射)直後の朝や午後早くにはスタミナ切れになることなく、致命傷を負っても死ぬまで戦い続けることができるのです(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iraqdrugs13jan13,1,5653787,print.story?coll=la-headlines-world。1月14日アクセス)。
(注1)これら覚醒剤や麻薬の密輸入が彼らの資金源にもなっている。
(続く)