太田述正コラム#0670(2005.3.25)
<選挙後のイラク(その2)>

 (3)しかしそのスンニ派地区も早晩平穏化する
  ア この分析ははずれた?
 私は、選挙までにも平穏化すると分析していたわけですが、スンニ派地区における米軍への攻撃回数が、(ファルージャ平定戦が行われる直前の)昨年11月とその四ヶ月後の現在を比較すると、一日25回から10回に減少し、うち米軍に死傷者が出る回数も一日5回から2回未満へと減少したことは、スンニ派地区が平穏化したとは到底言えないものの、状況が大いに改善したとは言えそうです(注2)。

 (注2)これを象徴するのが、バグダッド中心部のグリーン・ゾーン(駐イラク米軍司令部等が所在)とそこに至るハイファ通り(Haifa Street)における攻撃の激減だ(http://www.nytimes.com/2005/03/21/international/middleeast/21haifa.html?ei=5094&en=e43e06c33904e6fe&hp=&ex=1111467600&partner=homepage&pagewanted=print&position=。3月22日アクセス)。

 しかし、イラク全土で見ると、不穏分子による攻撃は一日40??50回と、一年前と変化はありませんし、不穏分子の中核である「旧体制派ゲリラ」の勢力の推定値も12000??20000人と、昨年10月時点から変化はありません。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.nytimes.com/2005/03/19/international/middleeast/19marine.html?pagewanted=print&position=(3月20日アクセス)による。)
 他方、不穏分子の攻撃によって現在も一日2人弱の死者が多国籍軍に出ており、かつ一日20人のイラクの文民(civilian)の犠牲者が出ているとの報道があります(http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4367897.stm。3月22日アクセス)。
以上を総合すると、不穏分子の勢力に衰えは見られず、攻撃回数も減っていないけれど、米軍等多国籍軍への攻撃は減り、その分がイラク文民への攻撃にシフトしている、と言えそうです。

  イ 不穏分子の勢力や攻撃が減らない理由
 これについては、既に(2)でご説明したところです。
補足すれば、「「旧体制派ゲリラ」が・・外国人の「アルカーイダ系「戦士」」に無償で自爆テロを行わせ」ているのだとすれば、「アルカーイダ系「戦士」とイラク国内系スンニ派不穏分子との内ゲバ<が起きる>」(コラム#499)はずがない、ということも挙げられるでしょう。
実際、「アルカーイダ系は子供を含むイラク人一般市民への攻撃を厭わず、・・あらゆる手段を用いてスンニ派地区の状況を一層泥沼化させ、その結果として・・多国籍軍、就中米軍にできるだけ長期にわたってイラクにとどまらせることを企図しているのに対し、イラク国内系の不穏分子は、イラクの一般市民への攻撃には躊躇せざるを得ないし、・・スンニ派地区の物的人的被害が余りも長期にわたって続くこと<も>困るし、更にこのことで米軍等の駐留が長引いたり、イラクが三分割されてスンニ派だけ取り残されて割を食ったりするようではなお困ることから、両者の利害は短期的には合致しても、長期的には相容れないと考えられる」(コラム#492)という、昨年10月時点での、当時のCSモニターの記事をうのみにした私の指摘は誤りでした。
事実は、先日のロサンゼルスタイムスの記事(http://www.latimes.com/news/nationworld/iraq/la-fg-arabs23mar23,0,3663472,print.story?coll=la-home-headlines。3月24日アクセス)が書いているように、「イラク人の多くが不穏分子の活動における外国人の役割を非難しているが、・・文民への攻撃の大半はイラク人によって行われている」、であったのです。

  ウ 不穏分子による攻撃がイラク文民へとシフトした理由
 最初に、「旧体制派ゲリラ」の戦略が何であるのかを押さえておきましょう。
 イで述べたことからすれば、「アルカーイダ系「戦士」」ではなくて、「旧体制派ゲリラ」こそ、「あらゆる手段を用いてスンニ派地区の状況を一層泥沼化させ、その結果として・・多国籍軍、就中米軍にできるだけ長期にわたってイラクにとどまらせることを企図している」のであって、彼らにしてみれば、選挙の結果、正当性のあるイラク政府ができ、その政府の治安部隊が整備され、米軍等がイラクを撤退するような事態は阻止しなければならない、従ってまずは選挙を阻止しなければならない、ということになります。
 選挙が実施できず、正当性のあるイラク政府ができないまま、「イラク人」の軍事力をほぼ独占した状態で多国籍軍との戦いを続ければ、早晩多国籍軍は嫌気が差してイラクから撤退し、再びスンニ派は旧フセイン体制下の特権的地位を回復できる、という読みです(注3)。

 (注3)米国において、40年前までの間、少数派たる黒人の選挙への参加(黒人への公民権の付与)を阻止すべく、権力を掌握していた多数派たる白人の一部が、黒人や公民権運動家を殺害したりして妨害したものだが、21世紀のイラクにおいて、多数派たるシーア派/クルド人の選挙への参加を、つい最近まで権力を掌握していた少数派たるスンニ派の一部が、シーア派/クルド人と選挙管理者たる多国籍軍を殺害したりして妨害しようとした罪は重い。(http://www.csmonitor.com/2005/0124/dailyUpdate.html(1月25日アクセス)参照。)

(続く)