太田述正コラム#687(2005.4.10)
<風雲急を告げる北東アジア情勢(その1)>
1 始めに
中共による反国家分裂法の採択は、チェーンリアクションのように様々な動きを呼び起こし、東北アジア情勢は風雲急を告げるに至っています。
台湾では親中派が右往左往する一方、「独立」派は勢いづいています。
他方中共政府は、次々におかしな動きをしています。これは胡錦涛政権、ひいては中共政権そのものが危機に瀕していることの反映のように思えてなりません。
便宜上、大きく台湾での動きと中共での動きに分けて論じることにしました。
2 台湾での動き
(1)100万人デモ
3月26日に台湾の首都台北で、14日に中共が採択した反国家分裂法に抗議するデモが民進党の主催で挙行されました。このデモには公称100万人(一説には50万人)という、台湾でのデモとしては空前の規模となり、その中には陳水扁総統・李登輝前総統の姿も、そしてこれまでは考えられなかったことですが、多数の国民党支持者達の姿もありました。(http://www.sankei.co.jp/news/050326/kok083.htm(3月26日アクセス)及びhttp://www.nytimes.com/2005/03/27/international/asia/27taiwan.html?pagewanted=print&position=(3月27日アクセス))
(2)国民党訪中
台湾の最大野党の国民党(副主席をヘッドとする34人の)訪中団は、3月30日から5日間、中共を訪問し、中共当局との間で貿易・農業・観光・在中共台湾企業人の保護等に関し10項目の合意を交わして帰国しました。
この訪中は、陳水扁政権と「野合」した第二野党の親民党主席の宋楚瑜(James Soong)が中共と台湾両政府の仲介役を務めることを恐れて急遽実施されたとも言われています。
国民党自身が実施した事前の世論調査によれば、この訪問に台湾人の44%が賛成、30%が反対であったというふれこみですが、陳水扁政権は、訪問そのものもさることながら、政府をさしおいて野党が外国と合意を交わしたこととらえて、激しく非難しています。
そして台湾の検察当局は、この合意が、政府の承認なくして密かに外国と協約を締結した者は7年以上無期以下の刑に処せられるとしている台湾の刑法第113条に抵触する可能性があるとして捜査に乗り出しました。
これに対しては国民党等から、中共は「外国」と言えるのか(注1)、またこれまで台湾の民間団体が中共当局と様々な協約を締結したが処罰されていないではないか、という反論がなされていますが、当局は、台湾(中華民国)も中共もそれぞれ主権国家であり、中共が台湾にとって「外国」であることは明らかだ、また、これまでの民間団体による協約は政府や政治に関わるものとは言えないからだ、と一蹴しています。
(以上、http://www.nytimes.com/2005/03/30/international/asia/29cnd-taiwan.html?pagewanted=print&position=(3月31日アクセス)、及びhttp://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2005/04/08/2003249586、http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2005/04/08/2003249619(4月9日アクセス)による。台北タイムスのサイトは本日朝から2000の現在までダウンしている。中共の反台湾分子のサイバーテロのせいではないかと懸念している。)
- (注1)台湾の「国民」と中共の「国民」との間の関係を律する法律である「台灣地區與大陸地區人民關係條例」(Statute Governing the Relations between the People of the Taiwan Area and the Mainland Area)は、中共の施政下の領域を明示的に外国の領域とはしていない。
(3)台湾党首靖国神社参拝
台湾の過激な「独立」派政党である台湾団結連盟の蘇進強(Shu Chin-chiang)主席は訪日し、4月3日、同連盟日本支部を設立し、翌4日三名の同行議員らとともに靖国神社を参拝しました。
靖国神社には、旧日本軍の軍人、軍属として戦死した台湾人のうち、約2万8000人が合祀されていますが、台湾の政党の党首が参拝したのは初めてのことです。(この党の後ろ盾となっている李登輝前総統のお兄さんも靖国神社に祀られている。ちなみに、朝鮮半島人2万1000人も合資されている。)
この台湾団結連盟の動きは、親中勢力の国民党の訪中と10項目合意に対する親日勢力の大胆なカウンターパンチであり、台湾の人々に台湾のアイデンティティーについて改めて考えさせることを意図したものであると受け止められています。
これに対して、国民党と親民党及び民進党の一部からさっそく非難の声があがり、ある台湾の新聞の世論調査では、台湾人の約53%が参拝を「不適当」とみなしているとされましたが、民進党は基本的に「ノーコメント」としており、教育部長(教育相に相当)は、「台湾人は日本人として太平洋戦争に動員されたが、彼ら(動員された人)は(台湾)同胞であり(参拝は)当然のことだ」と語り、波紋を投げかけました。
論点は、参拝は軍国主義礼賛だ(武力で台湾を恫喝している中共こそ軍国主義だ)、原住民の虐殺等を行った日本のどこがいいのか(清は台湾を化外の地とみなしていたし、国民党政府こそ台湾人の大虐殺を行ったではないか)、先の大戦に台湾人は強制的に協力させられた(自主的に協力した)、などです。
(以上、http://www.sankei.co.jp/news/050403/kok081.htm(4月3日アクセス)、http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20050404id27.htm(4月4日アクセス)、http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2005/04/05/2003249178(4月6日アクセス)、http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2005/04/06/2003249321(4月7日アクセス)、http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2005/04/06/2003249322(4月7日アクセス)、http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20050407id26.htm(4月8日アクセス)、http://news.ft.com/cms/s/f13515b2-a81a-11d9-87a9-00000e2511c8.html(4月9日アクセス)、http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2005/04/08/2003249559(4月9日アクセス)による。)
(続く)