太田述正コラム#688(2005.4.11)
<ヨハネ・パウロ二世の死(その2)> 
 (掲示板にも載せましたが、3月(11日)?4月(10日)のHPへの訪問者数は、残念ながら18493人と、28日間と31日間の差を勘案すると、低かった先月の17670人を更に下回る低い結果に終わってしまいました。しかも、メーリングリスト登録者数も、1195名と、一ヶ月前に比べて、更に9名も減り、1200の大台を割り込んでしまいました。累計訪問者数は、351,837人です。)

3 中間的総括
 
 さて本稿では、最初にヨハネ・パウロ二世が、カトリック教会がこれまで犯してきた罪を次々に陳謝したことを彼の功績として紹介した後、彼が新たに犯した罪を列記しました。
 罪を陳謝する側らで新たな罪を犯すとは、まことに人間的な法王であった、と皮肉の一つも言いたくなりますね。
 しかし果たしてそれは、ヨハネ・パウロ二世という法王も一人の生身の人間であった、というだけのことを示しているのでしょうか。
 恐らくそうではありますまい。
 ヨハネ・パウロ二世の在位が長かったことから、彼の事跡を通じてカトリック教会の本質が明確な形で露呈した、と受け止めるべきではないでしょうか。
 宗教的ドグマを掲げた超国家的な官僚機構が、自ら政治権力として、或いは各地の政治権力と結びつきながら多様な国や民族に属する人々の思想や行動を統制する、という組織経営のしくみをつくり出した希有な宗教団体が、カトリック教会です(注4)。

  • (注4)このカトリック教会が生み出した瓜二つの「異端」が国際共産主義だ。両者は、ア 領土(法王領等v.ソ連等)、イ 経典(旧約・新約聖書v.カール・マルクス全集)、ウ 経典解釈独占官僚機構(カトリック教会v.ソ連共産党)、エ 異端審問(異端審問所v.チェカ(KGB))、オ 目的論的(teleological)史観(千年王国v.共産主義社会)、カ 仇敵(非カトリック勢力v.帝国主義・資本主義勢力)、といった属性を共有している。両者の違いは、片や有神論、片や無神論、という点だけだ。(http://books.guardian.co.uk/review/story/0,12084,1343733,00.html(2004年11月6日アクセス)。ただし、この典拠は、直接カトリック教会に言及してはいない。)
    後で生まれた国際共産主義の方は1991年、ソ連の崩壊の形で既に壊滅したことはご承知の通りだ。

 このような宗教団体も人間の集まりですから、人間の犯す過ちから自由ではありません。問題は、人間の集まり、その中でもカトリック教会のように、ドグマを掲げた巨大な組織が犯す過ち・・罪・・は、そのスケールもとてつもなく大きい、ということです。にもかかわらず、困ったことにそれは、「超国家的」な官僚機構であるがゆえに個々の国家権力がコントロールすることは不可能であり、また「官僚」機構である以上、その機構が内部から民主的にコントロールされることもありえません。
 従って、過ちが正されるのには長い時間がかかるし、場合によってはいつまで経っても正されない過ちも出てくる、ということになります。
 こんなカトリック教会が、法王領(バチカン市国)というミニ領土を持った国家でもあり、国連でオブザーバー資格を持ち、国際場裏で大きな政治的影響力を行使しているのはまことに困ったものです。
 しかも、カトリック教会は、プロテスタント諸派の成立によって欧州及びイギリスで勢力を削がれ、また、領土を殆ど失いつつも、広義の欧州たる中南米において圧倒的な勢力を誇り、米国でも最大の宗教であり続け、アフリカでも信徒の数を増やしつつあり、しめて約10億の信徒を抱える、世界最大の宗教で依然あり続けています(注5)。

  • (注5)もっとも、カトリック教会発祥の地である欧州では、(プロテスタント諸派も含め)世俗化がとどまるところを知らずに進展しており、カトリック教会(ひいてはキリスト教)は欧州では消滅に向かっていると言って良かろう。

 日本は、まず安保理常任理事国入りを果たすべきですが、その上で、カトリック教会の女性問題や人口問題でのスタンスに強く反発している欧米のNGO(注6)等と提携しつつ、法王庁の国家としてのステータスそのものに疑問を投げかけつつ、カトリック教会の国連オブザーバー資格の取り消しを図るべきでしょう(注7)。

  • (注6)事の発端は、コソボ紛争の際にセルビア人兵士に強姦されたアルバニア系難民女性達に事後妊娠予防薬(morning-after pill)を処方することにまで、堕胎に当たるとしてカトリック教会が疑義を表明したことだった。そもそもカトリック教会は、国連の家族計画予算を一般的な開発援助予算に振り返るように促してきた。家族計画諸団体はこれらを問題視し、1999年から、カトリック教会も他の宗教団体同様、国連では単なるNGO扱いをされるべきだと主張し始めた。
    http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/341833.stm。4月11日アクセス)
  • (注7)本件に関しては、中共が信教の自由の拡大に同意するのであれば、中共と共闘してもよかろう。米国では、行政府も議会もカトリック教会の国連オブザーバー資格維持に賛成であり(http://www.atheists.org/flash.line/vatican7.htm。4月11日アクセス)、米国とは衝突することになる。

(続く)