太田述正コラム#691(2005.4.14)
<風雲急を告げる北東アジア情勢(その4)> 
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<補足>
 ここで少し補足しておきます。
 「中共では、いかなる街頭行動も原則許されていない」(コラム#690)のですが、昨年5万8000件も起こった民衆の街頭行動は、ガス抜きの観点から例外的に、事前に弾圧されたり直後に強制的に解散させられることなく、一定の枠内で行うことを許されたものです。
 今回の反日行動は、こういった街頭行動とは明確に違います。
 北京で行われたものは、(1)ウエブサイトへの書き込みやサクラを通じた工作を行った政府、(2)これに呼応した反日意識を抱くところの一部エリート青年(大学生等。インターネットは中共ではまだエリートの媒体(注4))、(3)街頭で反日行動に加わったところの社会に不満を持つ群衆、という三つの要素が渾然一体となって行われたものだ、と言えるでしょう。

  • (注4)中共のインターネット人口は2004年末で9400万人で日本を抜いて米国に次ぐ第二位。その三分の一弱は学生で、三分の二強は30歳以下。ウエブサイトの書き込みを読むためには最低限512Kのブロードバンド接続をしている必要があり、このようなブロードバンド人口は4000万人超、すなわち中共の人口13億の3%強、に過ぎない。まさにエリートである。(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050413-00000005-scn-int。4月14日アクセス)

 それでは、北京以外で行われた反日行動はどうだったのでしょうか。深センのケースの報道(http://www.atimes.com/atimes/China/GD14Ad06.html。4月14日アクセス)の要旨をご紹介しておきましょう。
 日章旗に火をつけると、もう一人の男が消化器ですぐ消し止める。オートバイ用ヘルメットで防護した男が運ぶ小泉首相の人形をもう一人の屈強な男が棒術用の棒でぶっ叩く。警官は、まるでデモ隊を誘導するかのように歩く。何と組織だっていることか。教科書の改悪に抗議しているというので、どこでそのことを知ったのかと聞いたところ、仕事場で教えられたという。燃やした日章旗はどうやって手に入れたと聞くと、デモに狩り出されたバスに乗っていたとき手渡された、という。
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  エ 対日新政策
 第一は、中共の温家宝温家宝首相が、全人代で反国家分裂法が採択された3月14日に、その全人代の閉幕後に行われた記者会見の場で新対日政策を発表したことです。
 ご紹介するのが一ヶ月も遅れて恐縮ですが、温首相が発表した新対日政策の骨子は次のとおりです。
 同首相は、中日「両国関係は、最も重要な2国間関係である」と位置づけたうえで、日中関係を改善するための三つの原則を述べ、更に三つの提案を行いました。
 三つの原則とは、歴史認識、台湾問題、及び経済協力に係る原則であり、(1)歴史問題については、「歴史を鏡にし、未来に向かうべきだ」としただけで、靖国問題への直接の言及は避け、(2)台湾問題については、日本と米国が2月19日に日米安全保障協議委員会共同声明の中で台湾海峡へ言及した(コラム#642)ことについて、「台湾問題は中国の内政であり、いかなる国も直接、あるいは、間接的に干渉することを許さない」と述べ、(3)更に、貿易等経済協力については、今後とも重視していく姿勢を示しました。
 また、三つの提案とは、(1)積極的に環境を作り、ハイレベルの相互訪問を促進する、(2)日中外交当局間で日中友好の戦略的研究に着手、推進する、(3)歴史の残した問題を妥当に処理する、というものです。ここでも、ハイレベルの相互訪問と歴史問題の解決を直接、結びつけていません。
 (以上、http://www3.nhk.or.jp/news/2005/03/14/d20050314000082.htmlhttp://news18.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1110788419/l50から孫引き)、及びhttp://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/archive/news/2005/03/15/20050315ddm003010090000c.html(どちらも4月12日アクセス)による。)
 これは要するに日本に対し、靖国問題はプレイアップせず、今後とも経済協力を促進するので、台湾問題だけには手を出すな、と釘を刺しているのです。これには、台湾問題を通じて、日米間に楔を打ち込むねらいもあるのでしょう。
 いずれにせよ温首相が、反国家分裂法が焦点であった記者会見で、あえて対日新政策を発表したことの意味を、われわれは重く受け止めなければなりません。