太田述正コラム#694(2005.4.17)
<風雲急を告げる北東アジア情勢(その7)>
キ 表現の自由規制強化
第四は、表現の自由の規制強化であり、とりわけインターネット規制の強化です。
インターネット時代においては、情報統制は困難になったと言われています。
しかし、中共政府はそうは考えていません。
中共では2000年に、ネットなどを規制する基本的な法律ができ、国家の安全と社会の安定、共産主義社会の秩序を乱すことはネット上で行ってはならないとされました。
中共政府は要員3万人とも言われるインターネット「警察」を設けており、ポルノ等のほか、台湾・法輪功・チベット独立・ダライラマ・天安門事件・趙紫陽・ヨハネパウロ二世等政治的に「問題」のある話題を扱ったウェブサイトへのアクセスを、物理的に、或いは検索サービスで検索できないようにしてブロックしており、しかもブロックしていることを気付かれないようにすることに成功しています。
中共政府はまた、1000近い言葉を使用禁止にしており、使おうとすると自動的にプロバイダーが伏せ字に変換してしまいます。そのプロバイダーは顧客管理を義務づけられており、違反すれば営業停止や責任者の逮捕が待っています(注9)。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.csmonitor.com/newsinbrief/brieflies.html#USA16:12:17(China enhances Internet censoring Posted: Thursday, April 14, 4:15pm EDT)(4月15日アクセス)、及びhttp://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050416/mng_____tokuho__000.shtml(4月16日アクセス)による。ただし、趙紫陽とヨハネパウロ二世はCSモニター下掲による。)
中共におけるインターネット規制は、このように世界で最も「進んで」おり、中共政府はインターネット時代においても情報統制が維持できると自信を深めているもようです。
中共のインターネットユーザーはノー天気なことに、胡錦涛政権になってからインターネット規制は緩和されたと思いこんでいます(http://www.guardian.co.uk/china/story/0,7369,1461256,00.html。4月16日アクセス)。このことからも、規制がいかに巧妙に行われているかがうかがい知れます。
- (注9)逆に、中共政府が何をブロックないし禁止し、何を放置しているかで、中共政府が何を考えているかが浮き彫りになってくる。
最近、米国で顰蹙をかったのが、コンドリーサ・ライス国務長官訪中の際、中共のインターネット上で彼女についてなされた書き込みの一割弱を占めた、人種差別的・女性差別的・容貌差別的書き込みだ。
あえて訳さないが、XZXZXZBlack devilXZXZXZ; XZXZXZblack pigXZXZXZ; XZXZXZblack whoreXZXZXZ; XZXZXZblack female dogXZXZXZ; XZXZXZReally uglyXZXZXZ; XZXZXZThe ugliest woman in the worldXZXZXZ; XZXZXZYou’re not even as good as a black devil, a real waste of a lifeXZXZXZ; XZXZXZHer brain is blacker than her skinXZXZXZ; XZXZXZYou are not even like a black ghost, a really low form of life,XZXZXZ; XZXZXZI don’t support racism, but this black ghost really makes people angry, the appearance of a little black who has made good.XZXZXZ(言うまでもなく、すべてもともとは中文)といった悪罵が彼女に投げかけられたにもかかわらず、各プロバイダーはもとより、当局も何の措置もとらなかった。
(以上、http://www.guardian.co.uk/china/story/0,7369,1461260,00.html、及びhttp://carecure.atinfopop.com/4/OpenTopic?a=tpc&f=5684097342&m=285104626(どちらも4月16日アクセス)による。)
以上に加えて、今年2月末、教育部から各大学に指示があり、先月から、中共の全国の大学のウェッブサイトの掲示板への規制が行われ始めました。 それぞれの大学の掲示板への、OB(海外にいる者を含む)や他大学の教官等オフキャンパスの人間のアクセスがブロックされるようになったのです。しかも、実名またはそれに準じるハンドルネームによる投稿しか許されなくなったのです。最も活気があったものの一つである北京大学の掲示板(30万人のメンバーを誇る)に至っては、閉鎖されました。
それまでは商業サイトへの規制に比べて大学サイトへの規制は緩やかで、政府を厳しく批判する投稿が全国レベルで議論を呼ぶ、といったこともあったのですが、これを防止しようというのです。
学生の間から反発する声が上がっていますし、異例なことに、政府経営の三つの新聞がこの措置を批判する記事を掲載しましたが、政府は批判を黙殺しています。
このようなインターネット規制によって、いまや中共政府は、1989年に東欧で次々に共産党政府が倒れた原因をつくったところの「不適切な」情報の流入、を防止することができる、という確信を持ったように思われます。(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A61334-2005Mar23?language=printer。3月25日アクセス)、及び(http://www.csmonitor.com/2005/0406/p01s04-woap.html。4月6日アクセス)
それだけではありません。情報の流入を防止する目途が立った中共政府は、今度はインターネットを通して情報を意図的に流して世論を誘導する実験を開始した、と私は見ています。
温家宝首相が新対日政策を発表したのは3月14日です(コラム#690)。
こうして日本に対して警告を発した上で、国営の新華社通信が発行する週刊紙「国際先駆導報」が3月25日号で、日本の「新しい歴史教科書をつくる会」が出版する歴史教科書に関する記事を掲載し、この中で、アサヒビール、三菱重工等の日本の10社が「つくる会」に資金提供をしていると報じたのです。
この記事は、「つくる会」のウェブサイトで紹介された賛同者の個人名簿から、関係する企業名を抜き出し、これら企業が資金供与を行っていると事実を歪曲して断じたものです。しかし、ネット上ではこの意図的歪曲記事を元に関連企業の商品の不買運動を呼びかける書き込みが相次ぎ、この結果、吉林省長春市などで歴史教科書に反対する商店主がアサヒビールを店頭から撤去したところ、これがネット上で称賛され、今月1日には小売業者などの組織が日本製品の不売運動を呼びかける声明をネット上に発表する事態に発展したのです。
(以上、http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050415k0000m030152000c.html(4月15日アクセス)による。)
手応えを感じた中共政府は、4月に入ってからこの実験をエスカレートさせ、日本そのものをターゲットにしたインターネットキャンペーンを開始した、というわけです。
(続く)