太田述正コラム#700(2005.4.22)
<風雲急を告げる北東アジア情勢(米英の見方)(その4)>
面白いことに、このガーディアン論説Cと極めて良く似ているけれど、水で薄めたような記事(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A2951-2005Apr19?language=printer。4月21日アクセス)が米国のプレスに載りました。
どこが水で薄められているかと言うと、中共の反日行動とフランスでのEU新憲章反対の動きを、経済等のグローバル化に抗うナショナリズムの高揚、ととらえる点では同じなのですが、アングロサクソンたる米国においても、やはり同様の理由でナショナリズムが高揚している、としている点です。ブッシュ政権のユニラテラリズムはその表れだ、というのです。
なお、この記事は、日本やオランダには言及していませんが、その代わり、イランの核兵器保有を目指す動き、レバノンでのシリア排斥の動き、ウクライナのオレンジ革命、ロシアでの伝統回帰の動き、をこのようなナショナリズム高揚の動きとして列挙しています。
(6) 日米同盟の強化と日本の再軍備を促す愚行
英国における報道中、非常に穿った見方をしているものを最後に一つご紹介しておきます。
ガーディアンの記事D(http://www.guardian.co.uk/japan/story/0,7369,1463078,00.html。4月19日アクセス)は、今回の中共の反日行動は、現在進行中である米国の軍事態勢の再編・・すなわち保安官たる米国はユーラシア大陸から次第に撤退し、その代わり、英国には欧州の、日本にはアジアの副保安官役を演じさせる・・を促進させるだけだ、と指摘しています。
だから、米国も、かねてから副保安官役を演じたがっている日本も、内心今回の反日行動を歓迎しているはずだ、というのです。
ここまでくると、今次反日行動は、米国がしくんだ陰謀だ、ということになりかねませんね。
4 教科書問題(参考)
教科書問題では、米国のメディアは、おおむね、日本にも苦言を呈しつつも、中共(と韓国)を批判しています。
NYタイムスの記事(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200504200504180008.html(4月19日アクセス)から孫引き。朝鮮日報があえてこの記事を紹介した勇気に敬意を表したい)は、中共や韓国の教科書より日本の教科書の方がバランスがとれている、としています。
そして、中共の教科書のバランスのとれていない点として、支那での抗日戦争のことばかりを書いて、先の大戦で日本を敗北させたのが米国であることに触れていないし、中共成立後については、毛沢東の大躍進運動という失政によって3000万人もの中共の人々が死んだことに口を拭っている点、を挙げています。
また、韓国の教科書のバランスのとれていない点としては、日本の植民地時代について、抵抗運動や日本による搾取のことばかりを記述し、日本への協力者がいたことや植民地下の経済発展について記述していないことを挙げています。
ワシントンポストの記事(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A61708-2005Apr17?language=printer。4月19日アクセス)は、中共の教科書だけを俎上に乗せています。記事の要旨は次のとおりです。
中共の教科書が、日本と違って、一種類の歴史記述しか許しておらず、その歴史記述が共産党の都合で次々に書き換えられてきたことは問題だ。
南京事件についてはかき立てているくせに、大躍進政策の犠牲者についての言及がないことや天安門事件で死者が出たことに触れていないことはおかしい。
仮に教科書の評価にあたっては、対外関係史(南京事件)での記述の方を、国内史(大躍進政策等)の記述よりも重視すべきだ、と言うのであれば、どうして1950年のチベット侵攻や、1979年のベトナム侵略について書いていないのか。また、どうして抗日共産ゲリラの話は書いても、真珠湾やミッドウェーや硫黄島の話を書かないのか。
そもそも、歴史を直視することはどんな国にとってもむつかしいことであり、米国だって南北戦争は忘れたいトピックスだし、日本が先の大戦で被害者としての立場を前面に押し出すのももっともな面がある。
しかし、米国や日本のような自由・民主主義国では、歴史に大して様々な見方が許され、それらの見方が、相互の議論を通じて更に深められていくのに対し、中共ではそんなことは望むべくもない。
かつて、中共の教科書は、ソ連を最大の悪役に仕立て上げていたが、最近ではそれが日本に変わった。次に最大の悪役に仕立て上げられるのは米国だろう。
中共が、日本が国連安保理常任理事国になりたいのなら歴史を直視せよ、と言うのであれば、中共の方も、常任理事国を続けたければ、歴史を直視すべきだ。
(完)