太田述正コラム#714(2005.5.6)
米国・軍事・米軍(その1)
1 始めに
先の大戦が終わってからというもの、世界の平和と安定は、世界の覇権国たる米国が、巨大な軍隊を維持し、その軍隊を世界各地に前方展開させてきたおかげで維持されてきた、という側面があることは否定できない事実です。
米国の経済力の相対的低下もあって、冷戦が終焉を迎えると、ソ連という主敵を失った米軍は大幅に縮小され、米軍が引き続きこのような世界の警察官的役割を果たして行くのかどうか、不透明になった時期があります。
しかし、2001年の9.11同時多発テロを契機として、米国は、アフガニスタンとイラクに米軍を侵攻させるとともに、新たに中央アジア等にも軍事基地を設けることとなり、米軍は以前にも増して世界の警察官として「活躍」するようになり、現在に至っています。
しかし、果たして米国は、今後ともこのような「責務」を担って行けるだけの意思と能力を持ち合わせているのでしょうか
2 意思の維持
(1)米軍の充足と士気の維持
ポスト冷戦期において、世界の警察官としての「責務」を担って行くためには、米軍の中で最も「汚い」仕事に従事し、かつ最も死傷率の高いところの地上部隊(陸軍と海兵隊)が充足され、かつその士気が維持される必要があります。
現在の米軍は志願制なので、まず要員を充足できるかどうかが問題です(注1)。
(注1)先の大戦の時には、人口の10分の1近くの人が軍隊に入っていたのに対し、現在では約500分の1に過ぎない。しかし、先の大戦の時は強制的に要員を充足できる徴兵制だったが、現在は志願制であり、要員を充足することは必ずしも容易ではない。
イラクに米軍が派遣されて以来、イラクでの米軍の死者は約1600人に達しています(http://icasualties.org/oif/。5月6日アクセス)が、それにもかかわらず、例えば、米陸軍州兵(Army National Guard=普段は通常の仕事を民間でしていて、招集があると兵士になる)のイラク戦開始までの年間減耗率(attrition rate=定年・負傷・死亡・非再志願による減少率)は18%であったところ、現在の減耗率は18.9%とほとんど変化がありません。
また、陸軍と海兵隊全体の再志願率(reenlistment rates)は、目標を上回っている
くらいであり、しかも海外に派遣されていた部隊に所属していた者の再志願率の方が高いというのです。
これは陸軍や海兵隊当局の予想を裏切るうれしい結果であるといいます。 もとより、二任期12年を勤め上げれば、様々の金銭的特典がつきますが、そんなことだけでは説明のつかない現象です。
(以上、http://www.csmonitor.com/2005/0503/p01s01-usmi.html(5月3日アクセス)による。)
要するに米軍の士気が予想外に高い、ということです。30年以上前にベトナム戦争を徴兵された陸軍兵士として経験をして、その後州兵となり、現在イラクに派遣されている高齢の兵士も少なくありません(注2)が、彼らに言わせれば、ベトナム戦争の頃には帰国すると、麻薬中毒・アル中・強姦者・殺人者のように見なされ、ののしられたりつばを吐きかけられたりしたのに、イラクで勤務して休暇で帰国すると、お帰りなさい、ご苦労様と言われ、天と地の差がある、というわけです。
(注2)40歳以上の割合は、イラクに派遣された陸軍兵士の6%に過ぎないが、州兵では22%にのぼる。
しかも、ベトナムの時は楽しみなど何もなくメシも戦時糧食だったけれど、イラクではTV・DVD・ビデオゲーム・ソファーやイス・冷蔵庫・ステレオ・インターネット付きで冷房の効いた食堂で時にはステーキやエビが食える、というのです。ベトナムの時はたまにしか家に電話をかけられなかったけれど、イラクではかけたい邦題だ、とも(注3)。
(以上、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-vietvets27oct27,1,7761311,print.story?coll=la-headlines-world(2004年
10月28日アクセス)による。)
(注3)ただし、ベトナムの時は許されていた酒・タバコ・女はイラクでは厳禁だ。
それに、死傷率はベトナムの時に比べれば、はるかに低く、しかも全員が志願兵であり、義務感にかられ、或いは冒険を求めてイラクにやってきているのですから、彼らの士気が高いのは当たり前かもしれませんね。
(続)
米国・軍事・米軍(その1)
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