太田述正コラム#727(2005.5.19)
<イラク不穏分子という謎(後日譚)(その1)>
1 謎などない/謎はやがて解ける
(1)始めに
以前(コラム#724で)、イラク不穏分子は謎だ、というするNYタイムス記事を紹介しましたが、その後、この記事を批判する論説や、この記事を恐らく意識したところの、謎はやがて解けるという趣旨の記事が米国で出ています。
(2)謎などない
まず、コラムニストのヒッチェンス(Christopher Hitchens)による批判記事の方からです。この記事の要旨を私の言葉に直すと次の通りです。
イラク不穏分子について、謎など全くない。
外国系の不穏分子はアルカーイダ系だが、アルカーイダがアフガニスタンでタリバン政権に何をやらせたかを見れば、彼らが「イデオロギーないし大義」や「政策」(コラム#724)を持っていることは明らかだ。
彼らの「イデオロギーないし大義」は、カリフ制の下にあるオスマン・トルコ帝国的な帝国の復活であり、7世紀のアラビア砂漠における宗教的純粋性への回帰なのだ。
そこから、ユダヤ教徒・ヒンドゥー教徒・キリスト教徒なる不信心者や背教者シーア派との最終決着を目指す聖戦という「政策」が必然的に導き出されてくる(注1)。
(注1)キリスト教勢力(英国)によってオスマン・トルコから分離させられ、その後もキリスト教勢力(米英)との癒着を続けるクェートをフセインがイラクに併合したことも、キリスト教勢力(米英)の協力を得ながら、イラクの分解をもたらしかねない分派行動をとってきたクルド人をフセインが弾圧したことも、当然だ、ということになる。
この「政策」の中身は、彼らの頭目とされるザルカウィ(Zarqawi)ら、外国系不穏分子によるいくつかの声明文を読めば、そこに書かれている。
例えば、彼らが民主主義を異端視しており、だからこそ民主的に選ばれたイラク移行政府を目の敵にするし、また、国連事務総長からイラクに派遣された高官ヴィエラデメヨ(Sergio Vieira de Mello)を彼らが自爆テロ(注2)で殺害したのは、この高官が、イスラム教のインドネシアからのキリスト教の東チモールの独立に関与した人物だったからだ、ということが分かる。
(注2)彼らは、自分達は死を愛しているのに対し、敵は柔弱で堕落していて生を愛しているがゆえに、自分達は必ず勝利する、と考えている。
他方、イラクの国内系の不穏分子の方はどうか。彼らの中心は旧バース党員だが、彼らの「イデオロギーないし大義」や「政策」もはっきりしている。
まず、「イデオロギーないし大義」は、旧バース党、すなわち彼らスンニ派エリートによる全イラク支配の回復だ。
「政策」については、バース党のフセイン時代の「政策」を思い起こせばよい。
すなわち彼らは、定型性なく気まぐれにイラクの一般市民の拷問と殺人を行い、その生命を日常的に危険に晒すことで一般市民を恐怖に陥れるとともに、スンニ派・シーア派・クルド人を冷徹に分割統治することによって、全イラクを支配してきた。
米軍等がイラクに侵攻した時以降、彼らがやってきたことは、この「政策」の発展的継承なのだ。
すなわち、バグダッド陥落前から行われ始めたところの米軍等への協力者の殺害と陵辱、バグダッド陥落直後に行われた略奪行為、そして、現在引き続いて行われているところの電力や水道施設の破壊や職業斡旋施設前に並んでいる人々への攻撃、はすべてイラクの一般市民を恐怖に陥れ、あるいは分裂させることによって、旧バース党支配を回復することをねらった「政策」なのだ。
このように見てくると、究極の目的こそ違え、「政策」において相通じるものがある以上、海外系と国内系の不穏分子が提携(野合?)したのはごく自然の成り行きだったと言えよう。
(以上、http://slate.msn.com/id/2118820/(5月17日アクセス)による。)
このヒッチェンスの外国系不穏分子の分析と、国内系不穏分子の「イデオロギーないし大義」についての分析については首肯できますが、外国系不穏分子の「政策」については、権力を掌握していた時にその維持のためにとった「政策」と同様の「政策」が権力を失った以降も有効であるとは思えません。
従って、国内系不穏分子がゲリラ・テロ活動を続けている理由はやはり謎なのであり、だとすれば、外国系不穏分子と国内系不穏分子が提携している理由もまた謎だと言わざるをえません。
(続く)