太田述正コラム#730(2005.5.22)
<戦略的要衝ウズベキスタン(その2)>
(本篇は、コラム#725の続きです。)
3 米国へのウズベキスタンの諜報面での協力
(1)協力内容
以上のほか、余り声高に語られることのないウズベキスタンの重要性があります。
すなわち、米国が部分的にはクリントン政権時代から、そして本格的には2001年の同時多発テロ以降、ブッシュ政権下において、諜報面でウズベキスタンから多大な貢献を受けているという点です。
まず、米国はウズベキスタンから、ウズベキスタン内外のイスラム教テロリストに関する情報を提供してもらっています。(英国(M16)も米国(CIA)と並んで情報の提供を受けている(http://www.guardian.co.uk/comment/story/0,3604,1484631,00.html(5月17日アクセス)前掲。)
次に米国は、ウズベキスタンに電波(SIGINT)情報収集基地(いわゆる象の檻)を設置させてもらっています。
これにより、米国は、アフガニスタン・イラン・中国・旧ソ連の中央アジア、にわたる広汎な地域から電波情報を収集することができているのです。
第三に米国は、エジプト・サウディ・ヨルダン・シリア・モロッコと並んでウズベキスタンにも米本土・アフガニスタン・イラク等でとらえたゲリラ・テロ被疑者を送り込んで委託尋問をしてもらっています。これはextraordinary renditionないし単にrenditionと呼ばれており、米国ではできない、人権侵害を伴う厳しい尋問をしてもらえるのが、米国にとってのメリットなのです。http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A57363-2004Oct23?language=printer(2004年10月25日アクセス)、http://www.nytimes.com/2005/02/11/opinion/11herbert.html?hp=&pagewanted=print&position=(2月12日アクセス)、(http://news.ft.com/cms/s/44660918-89b6-11d9-aa18-00000e2511c8.html(3月1日アクセス)、http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A18709-2005Mar8?language=printer(3月9日アクセス))
米国自身がイラクのアブグレイブ(Abu Ghraib)収容所(コラム#363?367、370、374、382?384)・キューバのグアンタナモ(Guantanamo)米軍基地・アフガニスタンのバグラム(Bagram)米軍基地で拷問まがいの取り調べをゲリラ・テロ要員に対して行っていて(http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/4551149.stm(5月16日アクセス)による。なお、バグラムでの拷問致死事件についてはhttp://www.guardian.co.uk/afghanistan/story/0,1284,1488919,00.html(5月21日)参照)なおそれでは不足だとして、上記諸国で本格的な拷問を加えた尋問をやってもらっている、ということですから、いかに米国が対テロ戦争をまなじりを決して遂行しているかがひしひしと伝わってきます。
ウズベキスタンにおけるrenditionについてもかねてから噂されていたところですが、確度の高い情報が5月初めにNYタイムスにすっぱ抜かれました。2002年から2003年末にかけて少なくとも7回、中東及び欧州からウズベキスタンの首都タシケントにCIAが専用機で囚人を運び込んだというのです。(http://observer.guardian.co.uk/international/story/0,6903,1484251,00.html。5月15日アクセス)
(2)米国のお返し
お返しに米国は2002年にウズベキスタンに5億ドル以上の援助を行いました。うち軍事援助が1億2000万ドル、治安援助8000万ドルです。
人権蹂躙で悪名高いカリモフ政権(後述)に援助したことに米国内外から批判が高まり、爾後援助額は減らされてきていますが、国防費の中から秘密裏に捻出されることになった経費もあり、公式の数値ほど援助額は減っていないと言われています。
(以上、http://www.guardian.co.uk/comment/story/0,3604,1484631,00.html(5月17日アクセス)前掲、による。)
4 ウズベキスタンの人権蹂躙ぶり
一体、カリモフ政権の人権蹂躙ぶりはどれほどのものなのでしょうか。
昨年12月にウズベキスタンで総選挙が行われましたが、野党候補の立候補は全く認められませんでした。報道の自由も皆無に近い状況です。首都タシケントでのデモは完全に禁止されています。そして、1998年以降毎年600人程度、累計7000人ものイスラム教テロリスト被疑者が収監され、彼らに対する拷問が広汎かつ組織的に行われており、少なくとも10人が拷問で殺されたことが明らかになっています。その中でも2002年に二人の収監者が釜ゆでにされて殺されたことは、全世界に衝撃を与えました。
ですからウズベキスタンにおいって、グルジア・ウクライナ・キルギスタンのように平和裏に民主主義化をなしとげることなど、到底不可能なのです。
昨年、マレー(Craig Murray)駐ウズベキスタン英国大使(当時)が、英国がウズベキスタンから拷問によって得られたテロリスト情報・・その大部分はでっちあげ・・を受け取っていることを問題視し、ウズベキスタンのかかる人権蹂躙に目をつぶって援助を行うべきではない、と英本国政府を批判し、馘首されたことも話題になりました。
(以上、ガーディアン上掲、オブザーバー上掲、http://observer.guardian.co.uk/international/story/0,6903,1484252,00.html(5月15日アクセス)、http://www.csmonitor.com/2005/0516/p01s02-wosc.html(5月16日アクセス)、及びhttp://www.guardian.co.uk/international/story/0,3604,1484865,00.html(5月17日アクセス)による。)
(続く)