太田述正コラム#732(2005.5.24)
<ベネズエラの挑戦(その1)>
1 カストロを救ったベネズエラ
キューバのカストロ政権については、以前(コラム#329、330で)取り上げたことがあり、その中でキューバとベネズエラとの関係についてもちょっと触れましたが、今回はそのベネズエラ(注1)を取り上げたいと思います。
(注1)Venezuela(小ヴェニスの意)。人口2500万人。その内訳は、混血(mestizo)67%、欧州系21%、アフリカ系10%、原住民(indigenous)2%。一人当たりGDPは8500米ドル。(http://www.lonelyplanet.com/destinations/south_america/venezuela/。5月23日アクセス)
まずは、キューバについての復習から始めましょう。
キューバ経済は、社会主義経済そのものがもつ経済的インセンティブの欠如という内生的問題と歴史的イデオロギー的観点からキューバを敵視する米国による経済封鎖(注2)という外生的問題によって、常に崩壊の危険に晒されてきました。
(注2)米国による経済封鎖は、全世界から総スカンを食らっており、昨年10月の国連総会でも封鎖解除決議案に対しては、賛成179カ国(含む日本)、反対4カ国(米国、イスラエル、マーシャル諸島、パラオ)、棄権1カ国、欠席7カ国だった。
そのキューバ経済を支えてきたのが、ソ連による高価格での砂糖の買付けだったのですが、
ソ連・東欧の崩壊によって、この買付けがなくなった結果、1993?94年にはGDPが40%縮小するという経済危機に陥り、この痛手からまだ完全には回復できていません。
(以上、http://www.yorozubp.com/0501/050110.htm(1月10日アクセス)による。)
その上、米墨戦争以来の因縁から反米であった隣国のメキシコが北米自由貿易協定(NAFTA)入りをきっかけに親米に転じたこともあり、キューバは更に一つ有力な支援国を失ってしまいました(http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/3679777.stm。2004年5月4日アクセス)。
そこに新たに登場したのが、白馬の騎士、ベネズエラのウーゴ・チャベス(Hugo Chávez。1954年?)大統領(注3)です。
(注3)ベネズエラ軍士官学校(含む修士課程)卒。中佐当時の1992年にクーデターを起こすが失敗し、2年間服役。1998年の大統領選挙で当選、大統領就任。2000年再選。2002年に米国の息ががかかっていると言われるクーデターで一旦追放されるも3日後に復活。また、昨年リコールの国民投票で60%が反対票を投じ、大統領職にとどまる。(http://www.lonelyplanet.com/destinations/south_america/venezuela/history.htm(5月23日アクセス)も参照した。)
世界第五位の産油国ベネズエラのチャベス政権は、2年前から、見返りとしてキューバから何万人もの教育要員(注4)や体操・医療要員(注5)を受け入れる形でキューバに低価格で石油を提供しています。これに加えて、中国やカナダによるキューバ産ニッケルの買付もあり、キューバの国際収支は昨年、1993年以来初の黒字を記録し、キューバ経済は蘇生することができました。
(以上、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-literacy13jun13,1,7517539,print.story?coll=la-headlines-world(2004年6月14日アクセス)、http://news.ft.com/cms/s/08a8f990-a6f2-11d9-a6df-00000e2511c8.html(4月7日アクセス)、http://www.csmonitor.com/2005/0520/p01s03-woam.html(5月21日アクセス)による。)
(注4)語学要員は、ベネズエラの原住民にスペイン語を教える教師の教育と語学ビデオテーの提供を行っている。これによってスペイン語だけでなく、キューバ式社会主義についてもベネズエラの原住民は学んでいる。なお、ベネズエラの文盲率は9%だが、原住民地区では60%にのぼる。ちなみに、1961年のキューバ革命でカストロが権力を掌握した頃、キューバの文盲率は50%だったが、その後、キューバでは文盲はほぼ克服されている。
(注5)体操・医療要員中の体操要員は、ストレッチ体操を教えている。医療要員は、健康診断と投薬を行っている。
(続く)