太田述正コラム#736(2005.5.28)
<風雲急を告げる北東アジア情勢(その17)>
(本篇は26日に上梓しました。29?31日の三日間、コラムを上梓できないので、前倒ししています。)
(4)中共による謀略は成功するか
中共による対台湾謀略はさしあたり失敗に終わった、と私が見ていることは既に(コラム#717、718)でご説明しましたが、二度にわたる、それぞれ様相の異なる反日行動からなる対日謀略も、失敗するであろうことは目に見えています。
台湾におけるあい拮抗する与野党勢力や、日本における自民党と公明党の微妙な連立関係とこれまたあい拮抗する首相靖国神社参拝への世論の賛否が、外国に謀略の余地を与えていることは否定できません。
しかし、台湾謀略の時もそうでしたが、中共による、飴と鞭の交互使用及び善玉悪玉峻別的アプローチは、幼稚すぎて、自由・民主主義が成熟した国の市民には効果が殆どありません。自由・民主主義の成熟度において台湾に比べて一日の長がある日本に対して、こんな謀略を試みるとは、呆れるほかありません。
飴と鞭の交互使用とは、温家宝首相の新対日政策発表(コラム#691)が飴、反日デモの形での反日行動の実施が鞭、その後の対日関係修復姿勢が飴、そして今回のドタキャンの形での反日行動の実施が鞭、といった具合に飴と鞭を交互に使用するものです。
また、善玉悪玉峻別的アプローチ(http://www.nytimes.com/2005/05/24/international/asia/24cnd-china.html?pagewanted=print。5月25日アクセス)とは、中共から見て、加藤紘一ら旧ハト派や公明党、そして民主党等の野党、更には経済界が善玉であり、小泉政権が悪玉であり、善玉を支援し悪玉を叩くというものです。
そして、この両方でもって、中共のねらいの実現を図るわけです。
遺憾ながら、中共のねらい通りの言動を行う政治家が出来していることは事実です。
ドタキャン事件の後、自民党内からは、小泉内閣でかつて官房長官を務めた福田康夫議員まで小泉首相を批判した(http://news.ft.com/cms/s/0a09922e-ccac-11d9-bb87-00000e2511c8.html。5月25日アクセス)ばかりか、加藤紘一元自民党幹事長に至っては、中共の対日戦略と戦術を褒め称える(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-snub24may24,1,7066783,print.story?coll=la-headlines-world。5月25日アクセス)始末ですし、公明党の神崎代表は、明確に小泉首相に参拝自粛を求めました(http://www.asahi.com/politics/update/0526/001.html?t1。5月26日アクセス)。また、民主党の岡田代表は、自分が首相になったら靖国神社は参拝しない、と断言しました(NYタイムス上掲)。
しかし、戦略的思考のできない国際感覚ゼロのこれら政治家(注29)が、世論の支持を集められるとは思えません(注30)。
(注29)神崎氏は、公明党を代表して発言していること、そもそも公明党の母体である創価学会は靖国神社どころか、神道そのものに敵対的であること、からやや事情を異にする。
(注30)NYタイムス(http://www.nytimes.com/2005/05/25/international/asia/25cnd-china.html?pagewanted=print。5月26日アクセス)が引用する米国人の研究者Robert Dujarricは、今回のドタキャンについて私とほぼ同じ結論に達しているのに対し、FT(上掲)が引用する東大教授で国際関係論の田中昭彦は、自民党べったりの学者だが、本件では中共側の肩を持って小泉首相を厳しく批判している。改めて、日本の学者、特に文系の学者のレベルの低さを憂える。
それどころか、首相になっても靖国神社に参拝すると事実上言明した安倍晋三自民党幹事長代理(http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/seiji/20050428/20050428a1230.html?C=S。5月26日アクセス)が次の首相になる可能性が一層高まったと見るべきでしょう(http://www.nytimes.com/2005/05/24/international/asia/24cnd-china.html?pagewanted=print前掲)し、公明党も靖国問題程度では、自民党との腐れ縁は絶てないことでしょう。
日本の世論に目を転じると、5月中旬に実施された世論調査によれば、92%が中共が支那での反日行動によって生じた損害について謝罪も補償もしないことに不快感を抱いており、77%が天然ガス油田や尖閣問題でもっと中共に強く当たるべきだと考えています(NYタイムス上掲)(注31)。
(注31)ちなみに、首相の靖国神社参拝を是とする者は48%、否とする者は45%だった。
経済界でも中共への警戒心が高まっています。
先般の支那での反日行動の後に実施された帝国データバンクによる、5,906社を対象とした調査によれば、三分の二が支那に投資することに懸念を持っており、支那への具体的投資計画を持っている社の約30%は投資の延期を考慮していることが分かりました(NYタイムス上掲)し、反日行動の一環として不意打ちのストをくらったユニデン(コラム#702)は、海外工場は中国だけに集約してきたのですが、今後は第三国にも分散設置することにしました(http://www.asahi.com/business/update/0526/039.html?t5。5月26日アクセス)。
以上から、郵政民営化がどうなるかにもよるものの、小泉首相が靖国神社参拝を行った場合に、中共が望むような政界再編が起きる可能性はまずない、と言って良いでしょう。
(続く)