太田述正コラム#743(2005.6.4)
<日本の死刑制度>
1 始めに
以前から不思議でならないのは、戦後の日本において、憲法第9条墨守勢力・・あらゆる戦争に反対し、自衛隊の保持に反対する勢力・・が強大であったというのに、死刑(capital punishment)廃止運動がなきに等しかったことです。
戦闘の際の敵兵の殺戮も死刑の執行も国家による殺人であるという点では同じはずですが、こういう次第で、戦後の日本においては、自衛隊は敵兵を一人も殺戮しなかった(注1)反面、死刑は執行されてきました。
(注1)仮にイラクで、自衛隊が攻撃を受けてその相手たるゲリラを殺戮したとしても、それはあくまでも正当防衛の範疇での隊員の行動であって、部隊としての行動、すなわち日本国による殺人には該当しない。なお、自衛隊自身、発足以来、一人の戦死者も出ていない。
2 日本の死刑制度
(1)増加する死刑判決数
日本における死刑判決数は、米国では減少しているというのに、増加傾向にあります。
2002年には日本の裁判所による死刑判決数は18人にのぼりましたが、これは29人が死刑判決された1961年以来の数です。
また、2000年から2003年にかけての4年間で55人に死刑判決が行われましたが、これはそれまでの11年間の死刑判決総数に匹敵します(注1)。
(注1)これに対し、日本における死刑執行数は2004年は2人であり、米国の59人に比べると少ない。ただし、死刑執行数がこの数倍にのぼる年もある。ちなみに、昨年9月時点での日本の死刑囚は63人。
サミット参加国7カ国中、死刑制度がまだ存続しているのは米国と日本だけ(注2)であり、この両国に対しては、かねてより、国連人権委員会・全欧会議(Council of Europe)・アムネスティーインターナショナルから批判が投げかけられて来ました(注3)。
(注2)世界を見渡すと、2004年9月時点で、ネパールやカンボディアを含む118カ国が死刑を廃止しているのに対し、78カ国が死刑を存続させている。韓国では1998年に金大中が大統領に就任して以来、死刑執行が行われていない、また、台湾では死刑が廃止される予定。なお、日本でも、1989年11月から1993年3月まで死刑執行が行われなかったことがある。
(注3)死刑制度の問題点として指摘されているのは、誤審は起こるものだが死刑の場合執行されてしまうと取り返しがつかないこと、裁判官によって同様のケースで死刑と終身刑に判断が分かれる場合があって著しく不公平であること等だ。
しかし、日本では死刑制度存続に賛成する声が強く、2005年2月の世論調査では、81%が死刑制度存続を是としています。これは米国よりも高い数字です。
(2)秘密に包まれた死刑執行
しかも、日本における死刑執行は秘密のベールに包まれており、死刑囚本人に対してもいつ死刑が執行されるのかは、執行の30分から1時間前まで開示されることはありません(注4)。
(注4)30年前までは、死刑執行は少なくとも前日までには家族に通知され、前日に家族がその死刑囚に面会することができた。取り扱いが変更されたのは、同じ年に最高裁で再審要件を緩和する判決が出た結果、事前に死刑執行期日を教えると再審請求が増えるのではないかと懸念されたからではないかという指摘がある。
この点についてもかねてより、上記諸団体から心理的拷問であると批判されているところです。
3 終わりに
亀井静香元自民党政調会長を会長とする死刑廃止議員連盟には約100名の国会議員が名を連ねていますが、亀井議員が、昨年1月、自衛隊のイラク派遣延長承認案の衆院本会議採決を、もともと米国等による対イラク戦そのものに反対であった「同志」たる加藤紘一元自民党幹事長、古賀誠元自民党幹事長とともに欠席あるいは棄権したことはご記憶の方もおられると思います。
私と考え方は異なるとはいえ、憲法第9条(戦争・自衛隊)と死刑制度に対する亀井氏の取り組みには一貫したものがある、と私は思います。
(以上、死刑に係る事実関係については、http://www.guardian.co.uk/japan/story/0,7369,1325467,00.html(2004年10月13日アクセス)及びhttp://www.foreignpolicy.com/story/cms.php?story_id=2830&print=1(6月3日アクセス)による。なお、亀井静香氏についてはhttp://www.asyura2.com/0411/senkyo6/msg/1035.html(6月3日アクセス)も参照した。)