太田述正コラム#744(2005.6.5)
<厳しく再評価される毛沢東(その1)>
1 始めに
毛沢東(Mao Zedong)については、以前(コラム#204で)ちょっと取り上げたことがあります。
毛沢東のやったことは、7割方正しかった、というのが現在の中共の公式見解です(http://www.nytimes.com/2005/05/29/international/asia/29museum.html?8hpib=&pagewanted=print。5月30日アクセス)。
その毛沢東は、現在でも中共での人気は全く衰えていません(コラム#134)。今年実施された中共での調査によれば、中共の中学生の最も尊敬する人物は毛沢東です(http://news.sohu.com/20050528/n225734905.shtml。6月4日アクセス)(注1)。
(注1)ちなみに、二位は父母、三位は周恩来(Zhou Enlai)、六位はジャッキー・チェン(Jackie chan)だ。
さて、このところ、毛沢東に対する厳しい再評価に係わる二つのニュースが英米のメディアを賑わしています。
二つのニュースとは、中共で文化大革命(Great Proletarian Cultural Revolution)に関する博物館の開館と、英国での新たな毛沢東の伝記の出版です。
2 文化大革命に関する博物館の開館
文化大革命(1966?1976年)は毛沢東が犯した最後の巨大な愚行でしたが、29年たってようやく文化大革命に関する博物館が三ヶ月ほど前に広東省の北東の端の汕頭(Chantou)市に開館しました。
この博物館は、汕頭市の元副市長(注2)が、市から補助金を出してもらい、更に香港の実業家等から資金を募って開館にこぎつけた私立の博物館です。
(注2)彼自身、文化大革命当時、反革命分子として死刑に処せられるリストにくわえられながら、最後の瞬間にこのリストからはずされて九死に一生を得た経験がある。
中共で、いまだに文化大革命に関する公文書が解禁されておらず、学者が文化大革命について表だって議論することも禁じられている(注3)ことを考えると、これは画期的なことです。
(注3)文化大革命の時のいわゆる四人組の一人である張春橋(Zhang Chunqiao)が今年4月21日に死去したことが、3週間近く伏せられ、5月10日になってようやく公表されたことは、中共当局が文化大革命について依然いかに悩ましく思っているかを物語っている。
しかし、この博物館開館のニュースは一時中共のメディアで報じられたものの、その後報道が禁じられており、上記の元副市長が外国のメディアのインタビューに応じることも禁止されています。
(以上、特に断っていない限りNYタイムス上掲及びhttp://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/06/02/AR2005060201916_pf.html。6月4日アクセスによる。)
3 新たな毛沢東の伝記の出版
(1)出版まで
更に画期的なのは、1991年に上梓されたワイルド・スワン(Wild Swans)という世界中で1000万部以上売れたベストセラーの自伝本の著者であるチャン(Jung Chang。支那出身)と彼女の夫のハリデー(Jon Halliday。英国人で歴史学者)の共著、Mao: The Unknown Story, Jonathan Capeが、7月2日に発売されたことです。
これは、ワイルド・スワンの印税を元手に、10年間かけて、ロシア語に堪能なハリデーが冷戦崩壊後のロシアで解禁された支那関係公文書を担当し、チャンは中共関係者に対するインタビューを担当するといった分業を行いつつ、38カ国の350人以上の人々にインタビューを行い、巻末に記されているだけで1000以上の文献にあたって、二人が書いた本であり(http://thescotsman.scotsman.com/critique.cfm?id=582472005。6月4日アクセス)、英米で既に大変な話題になっています。
(続く)