太田述正コラム#10291(2019.1.3)
<謝幼田『抗日戦争中、中国共産党は何をしていたか』を読む(その23)>(2019.3.25公開)

 「周仏海・・・らは抗戦の前途にきわめて悲観的で、抵抗すれば必ず滅びるとみなす一方、ひたすら個人的な利益を追求し、その結果投降する方がよいと考えた。

⇒前段の彼らの判断が正しかったことを我々は知っていますし、後段は、むしろ、彼らが、蒋介石政権に未来はないと考えた根拠の一つだったと考えられるだけに噴飯物です。
 ご承知だと思いますが、蒋介石政権の重鎮達の大部分は「ひたすら個人的な利益を追求」する輩達だった(コラム#省略)のですからね。(太田)

 <彼らは、>漢奸になったのち、彼<ら>の関係と影響力をもって引き続き重慶方面[国民政府]を抱き込む工作を行った。・・・
 前に引用した、潘と汪の会見<は、>・・・潘が一般的な情報機関の人間ではなく、中共中央の代表であったからこそ・・・実現したことを証明している。
 汪兆銘は一般情報員に向って、中共と合作したいとの真意を語ることは決してなかったであろう。

⇒このくだりに関しては、(珍しいことに、)私としても、著者の言っていることに全面的に同意です。(太田)

 潘は実際には日本・汪傀儡政権側に駐在する延安の代表であり、兼任で中共の情報工作を指導し、・・・情報を日本と交換していた。・・・

⇒ここは微妙に間違っているのであって、「潘は、汪政権地区・・事実上の帝国陸軍占領地域・・に駐在していたところの、帝国陸軍に対する延安の代表であり、(以下、同文)」が正しい、と言うべきでしょう。(太田)

 1962年<に、中共当局は、その>・・・潘に懲役15年の判決を下し<、>・・・1972年、<その>刑<が>無期懲役に改められ<、>・・・毛の死後も潘は釈放されず、結局、<潘は、>湖南の労働改造農場で死んだ。
 <こうして、潘の>「口」は封じられた。
 これを不服とする潘の戦友たちは、中共が保存している<档>案や彼ら自身の回想を用いて、毛沢東・中共が抗戦の中で中華民族を売り渡した事実を文字にした。
 明らかになったことは、ほんのわずかではあるが…。・・・」(146~148)

⇒どうして、中共当局が、そんな「档案」類を「保存して」きたのか、そして、どうして、「潘の戦友たち」がそんな「事実を文字に」することを認めたのか、不思議に思わないところの、著者や訳者に対し、耳タコでしょうが、私は、中共当局の工作員である、という疑いを抱かざるをえません。
 それにしても、著者は、「明らかになったことは、ほんのわずかではある」などという謙遜めいた言葉を口にすべきではありませんでした。
 著者ら・・著者だけではありません・・の「尽力」によって、殆ど全てが明らかになったのですから・・。(太田)

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[CC団について]

 かなり前に登場した表記について、訳注からの抄録を遅ればせながら掲げておく。

 「CCの名称は、1927年9月に上海で設立された「中央倶楽部」(Chinese Club)<・・ChineseはCentralの誤記と思われる(太田)・・>の略称に由来するとされる。・・・
 国民党内の最有力派閥組織<であり、>・・・1933年、蒋介石の命を受けて設立され、当初の目的は青少年の獲得にあった。
 活動は「陰」「陽」二つの部分からなり、「陰」は極端な秘密活動、「陽」は公のイデオロギー宣伝で、共産党の唯物論に対抗して陳立夫<(注35)>の書いた[易経に基づくところの、]『唯生論』を宣伝し、定期刊行物『政治評論』を出版した。

 (注35)1900~2001年。米ピッツバーグ大鉱学修士。「日本の侵略に対抗するためには、「安内攘外」よりも国共合作を優先すべきとの立場をとっていた。1935年から、蒋介石の密命により、陳立夫は共産党との接触を開始し、さらにソ連も訪問している。この接触は、後の第2次国共合作の成立に大きく貢献した。・・・日中戦争(抗日戦争)勃発後、陳立夫は軍事委員会第6部部長に任ぜられ、民衆の動員と訓練につき責任者となった。1938年(民国27年)1月からは、国民政府教育部長も兼任し、抗日教育を推進した。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B3%E7%AB%8B%E5%A4%AB ([]内も)

⇒私の西安事件蒋介石自作自演説(コラム#省略)を思い出して欲しい。
 それにしても、蒋の中共、とりわけ、毛沢東についての無知ぶりには救い難いものがある。(太田)

 また蒋介石の・・・権威や独裁政治を強調し<た。>・・・
 国民党自身に大きな混乱をもたらし、1938年3月・・・廃止宣告を受けた。」(149~150)
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(続く)