太田述正コラム#776(2005.7.3)
<天下り停止へ?>
退職した中央省庁の幹部が関係先の業界の企業に再就職する「天下り」が橋梁談合事件などの「官製談合」の一因となっているという認識の下、経団連が天下り受け入れ停止を検討している、というニュースが流れました。
奥田碩会長(トヨタ自動車会長)が11日の会長・副会長会議で提起し、賛同を得られれば、正式に会員企業に対して、天下りの受け入れを見合わせるよう要請する考えとのこと。
会長要請に強制力はありませんが、過去の例ではかなりの拘束力を持ってきたこと、また仮にこの要請に従わなければ当該企業がマスコミ等から袋だたきに遭いかねないこと、から1,500余の会員企業は天下りを見合わすことになると思われます。
(以上、http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20050702AT1F0103601072005.html及びhttp://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20050702/eve_____sya_____001.shtml(どちらも7月2日アクセス)による。)
徐々に中央官庁の幹部の再就職規制は強化されてきており、現在は3年経たないと在職中に関係していた業界の企業には再就職できないことになっていますが、上記天下り受け入れ停止が、関係していた業界は永久に再就職を受け入れない、という趣旨だとしたら、これは画期的な措置だと言えるでしょう(注)。
(注)橋梁談合事件で焦点となっている道路公団については、現在退職者は関係先の企業にすぐ再就職できるので、再就職事情が激変するわけだ。しかし幸か不幸か、道路公団は近々民営化するので、民営化した時点で「天下り」規制は当然なくなることになる。
現在、官庁側ではたすきがけ人事といって、官僚aが関係していた業界の企業をA、官僚bが関係していた業界の企業をBとすれば、aをBに、bをAに3年間再就職させ、その後aをAに、bをBに再々就職させる、という姑息な脱法的方法で、天下り制度を温存継続しているところ、これが不可能になるからです。
こうなれば、官庁と(規制・助長行政の対象たる)所管業界との癒着は基本的に解消されるとともに、官庁による財・サービス調達の際の競争入札や指名競争入札に係るの官製談合は大幅に減り、よく指摘されているように、落札価格が2割近く低下することになるでしょう。
しかも、防衛庁の戦闘機や護衛艦のような随意契約で調達される大型装備品に関しても、納入企業への天下りがなくなれば、防衛産業との癒着がなくなり、防衛庁の装備品の性能等は向上し、かつ、契約価格が低くなること請け合いです。
ちなみに防衛庁は、防衛施設庁が防衛施設の建設等を行っており、こちらは基本的に官製談合の世界です。
私は、防衛庁の世話で天下りをすることは、国民の皆さんが払っておられる税金を無駄遣いすることになるので許されないと考え、自分の力で何とか再就職しようと考え、防衛庁を飛び出した人間です。
それだけに、奥田さん・・官公需に依存せず、従って天下りを受け入れていない企業の会長・・の提案が実現することを心から願っています。
仮にこの提案が実現したとして、残される課題を思いつくままに挙げると四つくらいあります。
一つ目は談合の完全廃止です。
すなわち、非官製談合つまりは企業サイドのみによる自主的談合の廃止と、政治家の官僚への強要による官製談合の廃止です。前者を実現するには、談合に対する刑罰を大幅に強化することであり、経団連にもこれまでの刑罰強化に対する消極的な姿勢は改めてもらう必要があります。後者を実現するためには、指名競争入札の指名プロセス、政治家の政治資金の流れ、及び指揮系統外の政治家と官僚との接触、をいずれも完全な情報公開の対象にする必要があります。
二つ目は、官僚の再就職の必要性をなくすことです。
そのためには、年齢加給を抑制しつつ官僚の定年を大幅に延長する(或いは定年を廃止する)か、それが困難な職種・・例えば自衛官・・にあっては年金を恩給に換え、支給額を大幅にアップすることです。
三つ目は、上記二つ目が実現するまでの間、官僚の関係法人への天下りの規制を飛躍的に強化することです。
何らかの形でこれをやらないと、企業活動の規制や助長行政に携わっているため関係法人の多い大部分の中央官庁の幹部と、防衛庁のように携わっていないため関係法人の少ない中央官庁の幹部との間で再就職に関して著しい不公平が生じるからです。
四つ目は、地方自治体の幹部の天下り規制も強化することです。この必要性は申し上げるまでもないでしょう。