太田述正コラム#10389(2019.2.21)
<映画評論53:ラ・ラ・ランド(その4)>(2019.5.11公開)

 (ィ)チャゼルの一見浅薄なジャズについての現状認識

 脚本・監督のチャゼルの父親のバーナード(1955年~)
https://en.wikipedia.org/wiki/Bernard_Chazelle
は、フランス生まれでプリンストン大学のコンピューター科学の教授(Eugene Higgins Professor)です(β)が、この父親がジャズ好きだといいます。
 1926年にヴァン・ヴェクテン(Van Vechten)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%86%E3%83%B3
が、小説『黒んぼの天国(Nigger Heaven)』
https://en.wikipedia.org/wiki/Nigger_Heaven
を上梓し、ニューヨークの黒人地区のハーレムとジャズへの白人の関心を掻き立て、恐らくは、これがバーナードのジャズへの関心をもたらしたと考えられるところ、チャゼルのジャズへの関心は、この父親譲りなのだろうという指摘があります。(D)
 いずれにせよ、米白人達の、いわば、米黒人達からのジャズ継受の黎明期に生まれたのが、「アメリカ的な芸術音楽の代表格とみなされてい<て、>・・・ヨーロッパのクラシック音楽とアメリカのジャズを融合させたシンフォニックジャズとして高く評価された・・・1924年<の>・・・ガーシュウィン<作曲の>・・・『ラプソディ・イン・ブルー』<(コラム#省略)>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%97%E3%82%BD%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC
、や、「アメリカで・・・ポール・ホワイトマンを通してジャズに親しんだ・・・影響<も>あると指摘されている・・・1926年<の>・・・ラフマニノフ<作曲の>・・・ピアノ協奏曲第4番<(コラム#10208)>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC4%E7%95%AA_(%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%8E%E3%83%95)等であるところ、チャゼルは、ジャズが、黒人、白人を超えた米国のいわば民族音楽になったこの時期を理想視し、その時代のジャズへの回帰を訴えているのだ、と私は考えています。
 チャゼルのあるべきジャズ論への批判(F)は、こういった点への認識不足によるのではないでしょうか。

 (ゥ)計算されつくしたキャリア形成

 チャゼルは、一貫して、このようなジャズ観を潜在的テーマにした諸作品を世に問うていくことで、自分の映画監督としての知名度を着実かつ確実に上げていくことに成功するのです。↓
 
 「チャゼルの最初の映画である『公園のベンチに座ったガイとマドリーヌ(Guy and Madeline on a Park Bench)』<(注5)>では、ジャズ・トランペット奏者を主人公にした。

 (注5)https://en.wikipedia.org/wiki/Guy_and_Madeline_on_a_Park_Bench

 「この2009年のデビュー作は、男は、果たして自分の音楽がピンとこない少女とデートできるかを描いた。」(C)
 「<そして、>二番目の映画である『セッション(Whiplash)』<(注6)>では、ジャズに憑依されたところの、大志を抱くドラマーを描<いた。>
 (注6)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3_(%E6%98%A0%E7%94%BB)

 この2014年の映画は、音楽に係る習熟とマゾヒズムへの賛歌だ。・・・
 <ちなみに、>上出のデビュー作では、まさに、黒人男性・・・とラティノの女性が登場する。
 でも、これは、ハーヴァード卒業生による独立プロ・デビュー作であって、3000万ドルもの予算をかける大映画会社制作映画(studio film)ではないのだ。

⇒ハーヴァード大卒業したての人物がポリティカル・コレクトネスに則ったジャズをテーマにした映画を作った、ということのマーケティング効果をチャゼルは計算した、ということでしょう。(太田)

 <その上で、>第三作、『ラ・ラ・ランド』において、ロサンゼルスでジャズの救命を志す男性・・・を登場させる。・・・
 ゴスリングにこのジャズ崇拝者を演じさせたことの得も言われぬ(wayward)効果は、この『ラ・ラ・ランド』が白人救世主によるトロイの木馬映画になったことだ。
 まさに、昔の支那を舞台にした『グレートウォール(The Great Wall)』<(注7)>におけるマット・デイモン(Matt Damon)、或いは、『ラストサムライ(The Last Samurai)』<(注8)>におけるトム・クルーズのように、『ラ・ラ・ランド』では、黒人達の運命が良い意図を持った白人の努力に委ねらることに。・・・」(D)

 (注7)2016年製作の中共・米国合作映画。チャン・イーモウ監督。宋が舞台。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%AB_(%E6%98%A0%E7%94%BB)
 (注8)2003年の米国映画。エドワード・ズウィック監督。明治初頭の日本が舞台。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%B5%E3%83%A0%E3%83%A9%E3%82%A4

(続く)