太田述正コラム#8042005.7.26

<ロンドン自爆テロの衝撃(後日譚)(その2)>

 (本篇は、7月24日に上梓しました。)

 (3)その後判明したこと

 その後、警官によって射殺された男は、白人(light-skinned)のパキスタン系の顔つきを全くしていないカトリック教徒で英語もできる27歳のブラジル人(独身)であって、テロ(注2)とは何の関係もない人物であったことが判明しました。

 (注2)7月7日の同時多発テロ(実行犯(死亡)中三人がパキスタン系、一人がジャマイカ系)と21日の同時多発テロもどきとの間につながりがあることも判明した。ロンドンで地下鉄三箇所・バス一箇所で爆発を起こした(起こそうとした)という点、爆弾がリュックサックに入れられていた点、爆弾の成分が類似している点等で両者が酷似しているだけでなく、21日の爆発しなかったリュックサックの中から出てきたビラが北ウェールズの筏乗りセンターについてのものであったところ、7日の犯人のうちの二人が犯行の一週間前にこのセンターで撮った写真が出てきているからだ。

 この男は、三年前から合法的に英国に滞在し、電気工をしており、仕事にでかける途中でした。

 リビングストーンロンドン市長は、「警察は、みんなの命を守るために必要だと信じたことを行った。・・この悲劇は、テロリストが責任を負うべき死者の数にもう一人の犠牲者が加わったことを意味する。」と警察をかばいました。

しかし、英国のイスラム教徒の様々な団体からは、警察の過剰反応だ、とか、地面に押さえつけられた人間に何ができるというのか、とか、容疑だけでは牢屋に入れることもできないのにどうして殺すことができるのか、といった批判(注3)が改めて出ています。

(以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/4711021.stmhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/4711169.stm、、http://www.nytimes.com/2005/07/24/international/24london.html?ei=5094&en=746c0082e3985aa4&hp=&ex=1122177600&partner=homepage&pagewanted=printhttp://www.nytimes.com/2005/07/23/international/europe/23bombings.html?pagewanted=printhttp://www.guardian.co.uk/attackonlondon/story/0,16132,1535246,00.html(いずれも7月24日アクセス)による。二つの同時多発テロのリンクについては、http://www.guardian.co.uk/attackonlondon/story/0,16132,1535237,00.html(7月24日アクセス)も参照した。)

(注3)北アイルランド・空港・核関連施設、を除き、英国の警官は原則として武器を携行していない。ロンドンの3万人の警官は全員スタンガンを使う訓練は受けているが、銃を使う訓練は7%しか受けていない。彼らは普段警棒と催涙スプレーしか携行していない。

    警官が銃を使うことはめったになく、ロンドンの警官は、1997年から2004年9月までの間に銃を使ったのは20回で、7人を射殺、11人を負傷させただけだ。

2 英国のイスラム社会の病理

この射殺事件への英国のイスラム社会の反応に対する私の懸念が的はずれではなかったことが、世論調査を通じて裏付けられました。

23日に英デイリー・テレグラフ紙に掲載された世論調査結果によれば、英国のイスラム教徒の四分の一近くが自爆テロ実行者の動機に同情sympathiseしており、半分以上が、同情するか否かはともかくとして、自爆テロ実行者の動機は理解できるとしています。また、三分の一近くが欧米の社会は退廃し、非道徳的なので、滅ぼさなければならないshould be brought to an endと考えており、16%が英国に忠誠心を感じておらず、%がロンドンの同時多発テロは許される(justified)としているのです。(http://www.guardian.co.uk/attackonlondon/story/0,16132,1535190,00.html。7月24日アクセス)

そもそも英国のイスラム教徒の中には、ニューヨーク等での2001年の同時多発テロが米CIAのやらせであったのと同様(?!)、今回のロンドンの同時多発テロも英諜報機関のM16のやらせではないか、家宅捜索等の結果爆弾が出てきたとしてもそれはM16があらかじめ運び込んだものでない保証はない、と全てを疑っている若者が少なくない、といいます(http://www.guardian.co.uk/attackonlondon/story/0,16132,1529686,00.html。7月16日アクセス)(注4)。

(注4)この種の陰謀論を真に受けて紹介する国際情勢「専門家」が日本にもいるが、アングロサクソン諸国において、当局が積極的に自国民の死をもたらすような陰謀に手を染めることは絶対にありえない。

この問題の根は深そうです。

ちょっと前にガーディアン紙が行った世論調査によれば、英国のイスラム教徒の84%が政治的目的のための暴力の行使に反対しつつも、33%しか、英国の文化の主流に自分達が統合されることを欲してはいません。

しかも、彼らが大量に流入してきた1950代からというもの、(パキスタン系やバングラデシュ系を中心とする)イスラム教徒は英国社会の最底辺を形成しています。以前(コラム#24で)「英国政府が・・公表した英国の少数民族についてのレポート<によれば、>英国での所得の順序が、インドのヒンドゥー教徒、インドのイスラム教徒、パキスタンやバングラデシュのイスラム教徒の順序になっている」と申し上げたところです(注5)。

(以上、http://www.nytimes.com/2005/07/16/international/europe/16muslims.html?ei=5094&en=7b1f44fe6658c193&hp=&ex=1121572800&partner=homepage&pagewanted=print(7月16日アクセス)による。)

 (注5)本稿ではもっぱらパキスタン系イスラム教徒について論じてきているが、7日のロンドン同時多発テロの4人目の実行犯はジャマイカ出身の黒人でイスラム教に改宗した19歳の英国人だったことを忘れてはなるまい。ただし、英国のイスラム教徒のうち黒人は7%に過ぎず、しかもその大部分はアフリカ系だ。

このジャマイカ系の男と、2001年に靴底に爆弾を仕込んで米国行き旅客機に乗り組んでつかまった犯人とは同じロンドンのモスクに通っており、両事件の爆弾の成分が類似していることから、このジャマイカ出身の男がロンドン同時多発テロ実行犯中のリーダー格ではないかと噂されている。

(以上、http://www.guardian.co.uk/attackonlondon/story/0,16132,1529828,00.htmlhttp://www.guardian.co.uk/attackonlondon/story/0,16132,1529894,00.html(どちらも7月16日アクセス)による。)

(続く)