太田述正コラム#809(2005.7.31)
<天下り停止へ?(続)>
(本篇は、コラム#776の続きであり、7月27日に上梓しました。8月4日から12日まで旅行のためコラムの上梓ができないので、その前の上梓頻度を上げています。)
1 道路公団副総裁の逮捕
日本道路公団発注の鋼鉄製橋梁工事をめぐる談合事件で、東京地検特捜部は25日、同公団副総裁の内田道雄容疑者(60歳)を独占禁止法違反の幇助と背任の疑いで逮捕しました(http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY200507250376.html。7月26日アクセス)。
具体的には、内田容疑者が技師長時代の2004年5月ごろ、公団OBから、ある橋の工事の「受注業者数を増やすために1工区ではなく、2工区に分けてほしい」と依頼を受け、同橋の分割発注を、(公団の経費が増えるので反対されたにもかかわらず、)指示した、という容疑です。
しかし、内田容疑者は、公団の橋梁工事の談合の仕切り役をしていたこのOBから受注(落札)予定企業が記載された「配分表」を示され、了承していたとも報じられています(注1)。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/wadai/news/20050727k0000m040155000c.html(7月27日アクセス)による。)
(注1)談合一般にも言えることだが、官製談合の対象は大方、一般競争入札ではなく、指名競争入札だ。一般競争入札では参加できる企業が多すぎて仕切ることが困難だからだ。
国土交通省は、「一般競争入札だと、落札価格が下がって品質低下を招く」との理由で、多くの工事で指名競争入札を採用し、これに他の中央官庁や公団等がならっているが、指名競争入札採用の本当のねらいは官製談合を行うためだと言ってよい。客観的に調査すると、落札率(予定価格に占める落札価格の割合)と工事の品質との間にはほとんど相関関係がない、という結論が得られるからだ。
(以上、http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20050716it01.htm(7月16日アクセス)による。)
なお、官製談合においては、官側から「指名競争入札参加業者の指名」と、こうして「指名された業者のうち1社または複数社への予定価格の漏洩」が行われる。
予定価格の漏洩が行われていると、当然のことながら、過大に積算ミスをして予定価格を設定した場合でも、その予定価格に見合った「高い」落札価格になる(http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050720it01.htm。7月20日アクセス)。
今回の道路公団による官製談合においては、「落札業者の指名」まで行われていたわけだ。最近道路公団は、世間を慮って、指名した落札業者に予定価格よりかなり低い落札価格をつけるように指示していたhttp://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/wadai/news/20050726k0000m040183000c.html。7月26日アクセス)、というから開いた口が塞がらない。
内田容疑者やこのOBが官製談合に血道を上げ、分割発注までして業者にまんべんなく利益が行き渡るようにしていたのは、できるだけ多くの業者をOBの受け入れ先として確保するためであったことも明らかになりつつあります(http://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/wadai/news/20050726dde001040068000c.html。7月27日アクセス)(注2)。
(注2)この毎日の記事は次のように報じている。
2004年10月、公団の企画部長らが橋梁工事業者たる三菱重工に、2004年1月に退職した「元技師長を年収約2500万円で受け入れてほしい」と依頼した。三菱重工が、「公正取引委員会による立ち入り検査の直後なので遠慮したい」と回答したところ、企画部長らは「上の意向だから」と再度要求した。それでも応じなかったため、当時副総裁の内田容疑者が三菱重工幹部を公団本社に呼び、直接要求したため、三菱重工は受け入れを余儀なくされたが、年収に関しては「高額すぎる」と交渉を続け、年収約2000万円を条件に今年1月、顧問として受け入れた。
この道路公団の事件は氷山の一角であり、調達官庁や調達公団等においてはどこでも天下りとセットになった形で官製談合が行われている、と言って良いでしょう。
助長行政や規制行政をやっている官庁は、担当業界に係る助長行政や規制行政に手心を加え、その見返りに天下りを確保していますが、こちらは、手段と目的との関係が必ずしも単純明快でないだけに、司直の手が入ることがほとんどありません。しかし、実態は同じである、と思っていただいて間違いありません。
2 天下り停止の話のその後
だからこそ、天下りをこのまま放置するわけにはいかないのです。
しかし、残念ながら日本経団連は、7月11日、会長自らが発議していた天下り受け入れ停止の先送りを決定してしまいました。
ところが、今度は経済同友会が15日、「われわれは利益誘導を目的とした天下りを受け入れない」というアピールを採択し、北城代表幹事は、「(一定期間禁止されている)利害関係企業への天下りについて、基本的にずっと受け入れない」趣旨だと説明しました(http://www.sankei.co.jp/news/050715/kei088.htm。7月16日アクセス)(注3)。
(注3)22日の幹事会で了承が得られれば、約1400人の会員にも対応を要請するということだったが、どうなったか承知していない。
実際にどこまで実行されるかはともかくとして、財界から次々に天下りを問題視する動きが出てきていることは、大いに評価したいと思います(注4)。
(注4)こうした中、日本建設業団体連合会(日建連)会長の梅田・鹿島会長が21日、建設会社へ官僚や公団OBの天下りについて、「当社も学識経験者を必要としている。<>今後も>知識や技術を生かす必要があれば、(官僚・公団OBを)採用していく・・官製談合と天下りを直接結びつけるのはおかしい」と述べた(http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20050721ib25.htm。7月26日アクセス)のは、語るに落ちた、というべきか。