太田述正コラム#822(2005.8.13)
<酷暑旅行記(その1)>
1 始めに
8月4日から12日まで夏休みをいただき、家族旅行をしてきましたが、その報告をさせていただきたいと思います。
行ったのは、奈良・飛鳥・高野山・熊野三山等・志摩(叔父の家)・万博です。
志摩までは家内と息子の三人、万博は私と息子の二人で回りました。
最初は、たわいない感想からです。
2 たわいない感想
(1)地球温暖化
留守中の東京で暑さの最高記録を更新したようですが、もともと暑い奈良や名古屋近郊を含む今回の旅行は、連日、とにかく暑かったです。
しかも、暑かっただけでなく、異常気象を経験しました。
5日には、高野山の宿坊「光台院」にレンタカーで到着する直前大雨が降ったのですが、光台院の庭の大木を雷が直撃し、枝が全て落ち、幹は裂けて白い肌が露出している無惨な姿が見えました。この落雷の影響で、客室のTVが使えなくなり、停電が起きたために大浴場もいつ入れるようになるか分からない、と言われました。(もっとも、約一時間でどちらも回復しました。)
また、旅行最終日の12日、万博会場がにわかに雷鳴を伴うスコールのような豪雨となり、その影響で、会場から名古屋駅までの直通電車が30分近く遅れ、予定していた新幹線に乗り遅れ、振り替えてもらって小一時間後の新幹線で帰京するはめになりました。
素人目にも、地球温暖化の影響は年を重ねるごとに甚だしくなってきている観があります。
にもかかわらず、二日強にわたって見学した、「自然の叡智」をテーマにした愛・地球博で、地球温暖化をテーマにした展示が一つも見あたらなかったのは、不思議でなりません。
(2)日本の豊かさ
ア 食べ物
びっくりしたのは、10日、11日と連泊した名古屋駅太閤通口(北口)歩3分のビジネスホテル・カームです。
客室でインターネット接続ができる名古屋駅近くのホテルをインターネットで探して予約したのですが、ロビーのソフトドリンク自動販売機(温・冷。紙コップや氷が自動的に出てくるタイプ)でただでソフトドリンクが飲み放題であり、しかもバニラ・チョコレート・ごま・ナタデココ・抹茶の5種類のソフトクリーム製造器も置いてあり、これもセルフサービスで食べ放題なのです。それだけではありません。各種駄菓子がそのそばに置いてあって食べ放題であり、朝は、何種類ものパンと二種類のジャム・マーガリン・パックがともに食べ放題、そしてこのロビーのテーブルはインターネットカフェを兼ねている、ときているのです。
(部屋にも、TV・ティッシュー・使い捨て歯磨きセット・お茶パック・シャンプー・ボディーシャンプー・(石鹸代わりの)ハンドソープ液、はもちろんのこと、寝間着・着衣用ブラシ・ヘアドライヤー・ズボンプレス機・シェービングフォーム・アフターシェーブクリーム・使い捨てひげ剃り・使い捨てヘアブラシ・パック入りスポンジ・綿棒、等が置いてあり、大した充実ぶりでした。)
値段も決して高くありません。
もちろん、ビジネスホテルですから部屋は狭いのですが、セミダブルベッドに二人で寝て、二泊わずか16,464円で済みました。平日とはいえ、万博(つまりは名古屋駅)へのアクセスの良さを考えれば安い、と思いました。
とにかく、このビジネスホテルの上記のような食べ放題を目の当たりにして、ついに日本もここまで来たか、としばし感慨に耽った次第です。
1988年に米国のスタンフォード大学に留学した時、25歳で若かったこともあって、一番びっくりし、うれしかったのは、学校で提供される食事が三食ともバイキングスタイルで食べ放題だったことです。昼食や夕食でのコーラやミルク、そしてアイスクリームの食べ放題が特に印象に残っています。最初の頃は毎回、スープ皿に各種アイスクリームを山盛りよそい、スープ用スプーンで一生懸命平らげたものです。
当時は、日本人の所得水準がどれだけ向上しても、こんな風にはならないだろうと思っていましたが、この予想が覆ったことになります。
イ トイレ
尾籠な話で恐縮ですが、印象深かったのは、旅行中、8泊した宿舎でのトイレがすべて洋式でしかもウォッシュレットであったこと、そして行き帰りの新幹線を含む6回のトイレ付き電車のうち、5回が洋式であったことです。(万博への往復の直行電車にもトイレがついていましたが利用しませんでした。)なお、万博のトイレは洋式でしたがウォッシュレットではありませんでした。
しかも、(親戚の家のトイレを除き、かつ万博のトイレを含め、)これらトイレの手洗いの蛇口には栓はついておらず、手を差し伸べると水が出てくる方式でした。
日本が、世界の文化の良いところを貪欲に取り入れつつ、ウォッシュレット化や自動蛇口化に象徴される、普遍性のある新たな文化を生み出して世界に発信していること、に改めて感じ入りました。
ウ その他
それこそ、約30年ぶりで日本のレンタカーを借りて、丸三日強使いましたが、JRグループの駅レンタカーは(全車種冷房完備であることはもちろんですが)、全車種カーナビ完備であることを知り、これにもちょっと驚きました。
最近の海外におけるレンタカー事情はつまびらかにしませんが、カーナビ完備という国は世界でもめずらしいのではないでしょうか。
おかげで、初めて訪れるどんな目的地に向かっても、全く頭を使うことなく、車を走らせることができました。
日本が普遍性のある新しい文化を世界に発信している例はここにもあると言えるのではないでしょうか(注1)。
(注1)ウォッシュレットやカーナビの普及率の国際比較データをご存じの方はご教示いただきたい。
自動車そのものが、日本の経済の再活性化のリード役を果たしており、その日本の自動車産業を代表するトヨタのお膝元の名古屋郊外で今次万博が開催されたことは、まことに時宜を得たものと言うべきでしょう。
(続く)