太田述正コラム#8282005.8.19

<イランの新大統領誕生(その6)>

 (本篇は、コラム#775の続きです。)

 (3)その後の展開

 いよいよ8月3日には、アフマディネジャドがイランの大統領に就任しました。

 新大統領が最初にやったことは、イランのイスパハン(Isfahan)の核燃料処理施設に、英仏独とイランの合意に基づいて国際原子力機関(IAEA)が昨年11月に施した封印を、10日に破棄したことでした(http://www.guardian.co.uk/iran/story/0,12858,1546383,00.html8月10日アクセス)。

 これを受けIAEAの理事会は、翌11日に全会一致でイランに対し、疑惑の対象である核燃料処理を行わないよう求めましたhttp://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iran14aug14,1,1636471,print.story?coll=la-headlines-world。8月14日アクセス)が、14日にイランは拒否回答をしました(http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-ferguson15aug15,0,1014553,print.story?coll=la-news-comment-opinions。8月16日アクセス)。

 米国ではCIAが、アフマディネジャドは在イラン米大使館占拠事件に関与していないと「かなり確実に(with relative certainty」断定し、新大統領就任早々の米国とイランの衝突はとりあえず回避されました(http://www.cnn.com/2005/US/08/12/cia.iranpresident/index.html。8月13日アクセス)。

 しかし、ブッシュ米大統領は13日、対イラン武力行使の可能性について問われた際、本年2月に引き続いて、’all options are on the table’という返事を行い、その可能性を否定しませんでした(ロサンゼルスタイムス上掲中の最初の方)。これに対しシュレーダー独首相は、総選挙を控えており、前回の総選挙で対イラク開戦に反対して不利な状況から勝利を呼び寄せた前例に倣ってか、「対イラン武力行使には反対だ。武力行使がうまくいかないことは実証済みだ」と何度も言明しています(http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20050818id23.htm。8月19日アクセス)(注12-2)。

 (注12-2)英仏独がイランにコケにされたことが明らかになっても対イラン宥和策に固執しているのはご立派と言うべきか。何せ、IAEAへのイラン代表が、EU(英仏独)の要求に応じてイランが核燃料処理を中断したのは、たまたまイランが技術的問題に直面していたので中断しただけであって、その後この技術的問題が解決したので、核燃料処理を再開した、と公言しているのだから。(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iran3aug03,1,7653163,print.story?coll=la-headlines-world。8月3日アクセス)

 8月初頭にはワシントンポストが、米諜報機関の最新のコンセンサスは、イランが核兵器製造能力を持つのは10年後に過ぎず、しかもイランに核武装の意思があるかどうかすら定かではないというものだ、とする記事を掲げました(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/08/01/AR2005080101453.html(8月13日アクセス)。NYタイムスは翌日付でこの記事に追随する記事(http://www.nytimes.com/2005/08/03/international/middleeast/03nukes.html?pagewanted=print(8月3日アクセス)を掲げた)(注13)。しかし、イランが上記封印を破棄して以来というもの、英米のマスコミでは、対イラン武力行使を迫る論調が中心になりつつあります。

 (注13)(イランの核武装は目前に迫っているとするイスラエル軍当局の見解を援用しつつ、)このワシントンポスト記事は、米国の左翼によるブッシュ政権攻撃の陰謀であるとする厳しい批判が直ちに投げかけられたhttp://www.wnd.com/news/article.asp?ARTICLE_ID=45567。8月19日アクセス)。

 例えば米ロサンゼルスタイムスは、「民主主義」革命は、英国の清教徒革命や米国の独立革命等の例外を除き、ほとんどすべてがとめどのない暴力のエスカーレーションをもたらしたとし、イランもそうなる可能性が高い以上、今核施設等を航空攻撃するしかない、とするニール・ファーガソン(コラム#207?212)論考(ロサンゼルスタイムス上掲中後の方)を掲げましたし、英ガーディアンは、対イラク航空攻撃が、英国の協力の下に米国によって遂行されるだろう、という論説(http://www.guardian.co.uk/iran/story/0,12858,1549335,00.html。8月18日アクセス)を掲げたところです(注14)。

 (注14)クリスチャンサイエンスモニターは、対イラク武力攻撃について、賛否両論を紹介することでお茶を濁しているhttp://www.csmonitor.com/2005/0817/dailyUpdate.html。8月18日アクセス)。

 上記ガーディアン論説の内容をかいつまんでご説明すると次のとおりです。

 このままほっておけば、イスラエルは必ずイランに対して航空攻撃を行うだろうが、(その場合アラブ諸国等の凄まじい反発は必至であり、)それくらいなら米国は自分で航空攻撃した方がマシだと考えるはずだ。

 米ブッシュ政権としては、イラクの現状が米国内において共和党支持者の一部からさえ不評を買い始めていることから、政権の人気の再浮上と米議会の中間選挙対策のためにも、対イラン武力行使に踏み切るに違いない。

 その場合英国は、既にイランの隣国のイラクに派兵しており、近々イランのもう一つの隣国であるアフガニスタンに派遣されたNATO部隊の指揮を執る予定であり、かつインド洋上のディエゴガルシア島の英軍基地が米国の航空攻撃にとって貴重な基地であることを考慮すれば、更には、大陸間弾道弾搭載原子力潜水艦の後継システムを米国から供与してもらうためにも、米国に協力せざるを得ないだろう。

 米国はイラクだけで手一杯なのに対イラン武力行使などやるはずがない、という議論は間違っている。

 米国の空軍力はイラクでは全く使われていない。120機のB52B1B2爆撃機だけで、一回の出撃で5,000の目標を爆撃できる。イランを航空攻撃するとなれば、その目標は大量破壊兵器関連施設には限られず、軍事・政治・(石油以外の)経済インフラも恐らく目標とされよう。その結果、イランにおける内戦勃発は不可避なものとなろう。北西のアゼルバイジャン地区には既に米国の支援の手が差し伸べられており、クルド人地区でも不穏な情勢が続いている。

 また、テロの増加・イラクにおけるシーア派の蜂起・ヒズボラ等によるイスラエル攻撃・ペルシャ湾岸におけるアラブ諸国の石油施設への攻撃・石油価格高騰に伴う不況、といった武力行使後のことを考えれば、米国は対イラク武力行使には二の足を踏むだろう、という見方もまた間違っている。

 なぜなら、イランが核武装した暁には、かかる脅威が一層募ることになる以上、今の内にその芽をつみ取っておくにこしたことはないからだ。

(続く)