太田述正コラム#845(2005.8.31)
<岡田民主党敗れたり(その4)>
5 再度党首の質を問う
(1)始めに
民主党のマニフェストの検証を通じて明らかになったのは、岡田民主党代表には、先に言及したもの以外にも弱点がある、ということです。
それは管理能力の不足と安全保障感覚の欠如です。
それらに触れた上で、先に言及した弱点と合わせ、それらが具体的にいかに選挙にマイナスに働いたかをご説明したいと思います。
(2)管理能力の不足と安全保障感覚の欠如
ア 管理能力の不足
民主党のマニフェストは、書かれていてしかるべきことが書かれていないこともさることながら、文書としてもできが悪いことにお気づきになったことと思います。(個人的に関心のある部分を読んだだけでも、私は、皇室典範が言及されている場所、男女共同参画社会や少子化という言葉の登場の仕方、がおかしいというお話を申し上げたところです。)
そんなことは、官僚であった岡田さんなら、マニフェストを一度通して読んでおれば、すぐ気が付いて訂正させたはずです。恐らく岡田さんは、マニフェストをぶつ切りで読んだことしかないのでしょう。しかし、忙しい岡田さんを、マニフェストを通読したことがないのか、と責めるのは酷です。
弱体である民主党事務局も責めることも控えるべきでしょう。
しかし、民主党議員には官僚出身者が沢山いるのですから、例えば彼らのうち何人かにマニフェストを通読させることはできたはずです。恐らくそれすらもやっていなかったと思われます。
民主党にとってのマニフェストの重要性を考えれば、これでは管理者としての岡田さんの適格性を疑われても仕方がありません。
他方、自民党のマニフェストは文書としては整っています。しかしこれは、小泉さんの管理能力とは関係なく、政権政党であり続けてきた自民党の強力な事務局のたまものでしょう。
イ 安全保障感覚の欠如
前述したところの民主党のマニフェストで欠けている2ないし3の懸案は、いずれも狭義広義の安全保障にかかわる懸案です。ですから、こういう懸案がマニフェストから落ちていることは、岡田さんの安全保障感覚の欠如を示すものです。
岡田さんは安全保障感覚を欠いているかもしれないが、憲法改正については、様々な憲法観を持った人々からなる民主党の分裂を防ぐためには、また、憲法改正が世論の大勢とはなっていない以上選挙対策上も、賢明だったという声があがりそうです。
しかし、マニフェストの「2.外交・安全保障」の中で書かれている具体的施策中、いくつか集団的自衛権の行使を前提にしたものがあり(注5)、その一方で「1.憲法」の中で、「国家権力の恣意的解釈を許さず」と言って解釈改憲の道を閉ざしているのですから、民主党は集団的自衛権行使のための憲法改正を選択した、と考えるほかありません。
(注5)「「国際平和協力隊(仮称)」の創設などについて検討をすすめ、日本として国際平和の維持・構築に正面から関与できるようにします。また、PKOに関しては、多様化する協力要請に対応するため、派遣される隊員の武器使用基準・・・を見直します。」、「弾道ミサイル防衛については、その必要性を踏まえ、・・・費用対効果などを含め総合的観点から検討をすすめます。これらに必要な予算は、防衛予算の中での振り替えで対応し、負担増を抑えます。」
これら施策が、集団的自衛権の行使を前提としていることについての説明には、ここでは立ち入らないが、PKOに係る憲法問題については、コラム#227、243、244参照。
それなら、マニフェスト上ではっきり憲法改正を明記すべきですし、それをしないとしても、せめて岡田さんは、(郵政民営化・廃止のラインを口頭で打ち出したように、)憲法改正を口頭で打ち出すべきなのです。
また、よもや男女共同参画社会の実現や少子化対策に反対する民主党議員や議員候補者がいるとは思えません。岡田さんが、これらをマニフェストに入れろと指示したら入ったはずです。
ですから、岡田さんの安全保障感覚の欠如は明らかです。
他方、小泉さんの安全保障感覚の欠如については、私はかねてから(コラム#226等で)指摘してきたところです。
まさに安全保障感覚の欠如についても、岡田、小泉のご両人はそっくりなのですが、たまたま小泉さんの方は首相であるため、宗主国米国の要求にはそこそこ従わなければならず、インド洋やイラクへの自衛隊派遣等を実行せざるをえませんでした。その結果、小泉さんについて、安全保障を重視しているとかタカ派であるといった評価がなされることがありますが、これには小泉さんご自身が苦笑していることでしょう。
(続)