太田述正コラム#861(2005.9.10)
<中共に変化の兆し?>
1 始めに
9月6日、英国のブレア首相は訪問先の北京で、中共の政治的自由面や人権面での前進について、これまで二回中共を訪問した時に比べ、中共政府当局者達が「この話題を避けようとせず、真摯に取り組みつつある」印象を受けた、と語りました(http://politics.guardian.co.uk/foreignaffairs/story/0,11538,1563762,00.html。9月7日アクセス)。
私は、このブレアの中共評価は正しいのではないか、と思います。
(以下、http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/09/08/AR2005090802120_pf.html(9月9日アクセス)に拠った部分が多いことをお断りしておく。)
根拠は三つあります。
9月3日の胡耀邦の抗日戦争における国民党軍の貢献を評価する発言(注)、9月5日の温家宝の民主化発言、そして胡耀邦復権の動き、の三つです。
(注)抗日戦争勝利60周年記念日における発言。欧米では対日戦争終了日は、戦艦ミズーリ上で日本政府代表が降伏文書に署名した2日だが、中共は降伏文書が発効した3日を抗日戦争勝利記念日としている(http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050908k0000e070070000c.html。9月9日アクセス)。いずれにせよ、8月15日を終戦の日としているのは、世界中で日本だけだ。(コラム#819参照。)
2 胡錦涛発言
胡錦涛中共主席は演説の中で、日本軍に対して真剣に戦ったのは中共軍であって中国国民党軍は中共軍攻撃にうつつをぬかしていた、というこれまでの中共の公式の歴史認識を改め、国民党軍の貢献に初めて言及しました。すなわち胡や中共の他の高官達は、中共軍の役割が決定的であったというスタンスは維持しつつも、国民党軍の貢献を具体的な作戦名や指揮官名を列挙して称えたのです。
これは、この春、中共が台湾の国民党主席ら野党勢力に招待攻勢をかけて、台湾の親中共勢力を懐柔しようとした戦略の一環であるという側面も否定することはできないものの、われわれとしては、中共が歴史認識の見直しに踏み込んだ点をこそ注目すべきでしょう
(以上、http://www.nytimes.com/2005/09/04/international/asia/04china.html?pagewanted=print(9月5日アクセス)にもよった。)
3 温家宝発言
中共には66万を数える市町村がありますが、その首長は直接選挙で選ばれており、中共党員以外の市町村長も沢山います。
温家宝中共首相は、記者会見の席上、「中共は、直接選挙を含め・・民主政治の発展に努めるだろう。・・人々が村(village)でそれ(=直接選挙)ができる以上、数年もすれば都市(township)でもできると信じている。早晩そうなることだろう。」と述べました。
これは、支那は広大で人口の多い後進国で人々の教育水準も不十分なので直接選挙はまだ無理だ等としてきたこれまでの中共の公式スタンス(コラム#350)を変更した、という意味で注目されます。
(以上、http://www.keralanext.com/news/index.asp?id=355628(9月9日アクセス)にもよった。)
4 胡耀邦の復権
この二つの中共首脳発言以上に注目すべきなのは、胡耀邦(Hu Yaobang。1915?89年。1980?82年中共党主席、82?87年中共党総書記)の復権が決まったことです。
胡耀邦は、「ブルジョア自由化」に寛容だったため、さらには独断で日本の青年3千人を中共に招待したこと等を理由に1987年1月、党総書記を解任されたのですが、1989年4月に彼が死去すると、学生が胡耀邦追悼と民主化を叫ぶデモを始め、5・4運動(コラム#696、712、713)の70周年記念日にあたる5月4日には北京の学生・市民10万人がデモと集会を行い、これが天安門事件へと発展した経緯があり、胡耀邦について語ることは爾来タブーとされてきていました。
ところがこのたび胡錦涛の承認の下、きたるべき11月に、胡耀邦の生誕90周年記念式典が、北京(人民大会堂で中共(党)主催。TV中継つき)、胡の生まれた湖南(Hunan)省、亡くなった江西(Jiangxi)省の三箇所で行われることになったというのです。(湖南省の胡の旧居は修理の上先般一般公開された。)
しかも、中共は、胡についてのシンポジウムを開催し、彼の公式伝記と著作集を出版するというのです。
天安門事件の再評価の動きはまだありませんが、胡耀邦の復権は将来、天安門事件の再評価につながる可能性があります。
(以上、http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/news/20050906k0000e030022000c.html(9月9日アクセス)及びhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%83%A1%E8%80%80%E9%82%A6(9月10日アクセス)にもよった。)
5 感想
これだけ中共に変化の兆しがあるというのに、日本のメディアは、総選挙のせいか、あまり報道をしていません。しっかりしてくれ、と言いたくなります。