太田述正コラム#8652005.9.14

<総選挙の結果について(その2)>

<補注>

 その後、FTからまたもや質の高い記事(http://news.ft.com/cms/s/1c56632e-23c0-11da-b56b-00000e2511c8,dwp_uuid=83aec348-087e-11da-97a6-00000e2511c8.html。9月13日アクセス)が出たほか、ロサンゼルスタイムスからも一応読むに値する記事(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-japan12sep12,1,184345,print.story?coll=la-headlines-world。9月13日アクセス)が出ています。遺憾ながらクリスチャンサイエンスモニターの記事(http://www.csmonitor.com/2005/0913/p08s01-comv.html。9月13日アクセス)はまるでダメでした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 まず、小泉首相が「自民党をぶっこわした」と言われていることから始めましょう。

 人事も政策も自民党総裁たる小泉首相のトップダウンで決定されるようになったからといって、「自民党をぶっこわした」ことにはなりません。

小選挙区比例代表制と政党交付金(いわゆる政党助成金)制度が導入された瞬間に、どの党においても、国政選挙立候補者選定権とカネの分配権を与えられた党首・執行部に権力が集中し、派閥的なものは存在意義を失ったのです。特に政権政党の党首・執行部の権力は巨大なものになっています。

ところが、橋本・小渕・森の各首相(自民党総裁)は、頭が急に切り替わらなかったこともあって、この権力を抑制的にしか行使しませんでした。これに対し、小泉首相(自民党総裁)は、これみよがしにこの権力を行使してきた、というだけのことです。

 考えてみると、小選挙区比例代表制と政党交付金制度はいずれも、自民党が11ヶ月間野党であった間の1994年に、細川内閣によって導入されたものであり(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E9%81%B8%E6%8C%99%E5%8C%BA%E5%88%B6http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/seitoujyoseikin.htmhttp://www.promised-factory.com/100years_after/pm/pm-list.html)、小泉首相は、かつての「敵」から贈られた塩を活用することで、自分のイメージアップを図ることができた、というわけです。

 このように、自民党内の権力の所在は変わったかもしれないけれど、果たして自民党そのものは変わったのでしょうか。

 答えはノーです。

 自民党は、官僚機構のエージェントであること、宗主国米国のエージェントであること、そして利益誘導(権益擁護)「だけ」の政党であること、の三点において、何ら変わっていないのです。

 第一に、自民党が、権益擁護団体と化した官僚機構のエージェントである点についてです。

自民党に官僚機構の意向に添って動いてもらう見返りに、官僚機構は政策立案やカネ・事業の配分を通じて自民党の集票の手助けを行ってきました(注2)。

 (注2)前にも述べたように、日本は、この官僚機構と自民党に更に財界を加えた政財官の三位一体の癒着構造の下にあるわけだが、この点にはここでは立ち入らない。

この官僚機構のドンは国家財政を取り仕切っている財務省(旧大蔵省)(注3)であり、小泉首相もまた、歴代首相(自民党総裁)同様、基本的に官僚機構、就中財務省の意向に添って動いている点では同じです。

 (注3)財務省から分離されたとはいえ、金融庁は依然財務省と一体的存在であり、「国家財政と金融を取り仕切っている財務省/金融庁」と形容した方が正確。(財務省は虎視眈々と金融庁吸収の機をうかがっている。)

また財務省は、日本型政治経済体制がアングロサクソン的政治経済体制に切り替わりつつある中で、引き続き官僚機構のドンとして培ってきた政財界の黒幕的地位を維持すべく、画策している。

 第二に、自民党が宗主国米国のエージェントでもある点についてです。

 小泉首相もまた歴代首相(自民党総裁)同様、米国の意向に添って動いていることは、米国の要請に従い、法的不備を放置したままでインド洋やイラクに自衛隊を送り込んだり、(ご自分の信念に加えて財務省の意向も反映されているところの)米国ご希望の郵政民営化に猪突猛進したり、拉致問題で米国の意向に気兼ねして経済「制裁」の発動を躊躇したり、と枚挙にいとまがありません(注4)。

 (注4)財務省自身、宗主国米国に対しては、他省庁や政治家、そして一般国民に対する傲岸不遜な態度とはうって変わり、ひたすらゴマスリにこれ努めてきた。いわゆる思いやり予算で、在日米軍の光熱水料(基地内の米軍宿舎での私用分を含む)や日本人基地労働者の人件費(独立採算制のスーパー等の従業員を含む)の100%負担を「査定」して恐るべき無駄遣いを生じさせたり(拙著)、税金を不良債権処理のために山のように注ぎ込んだ長銀を、あえて米国系のリップルウッド社に、しかも破格の瑕疵担保条件付きで売り飛ばし、労せずして同社に大儲けさせたり(JMM340M。9月12日アクセス)、これまた枚挙にいとまがない。

 第三に、自民党が権益擁護「だけ」の政党である点についてです。

 何度も申し上げているように、根っからのイデオロギー政党や宗教政党でない限り、権益擁護は政党の重要な役割です。そして政党は、時代の変化に応じて、権益擁護の対象の組み替えを徐々に行っていく必要があり、それができなければ、政権をとったり維持したりすることはできませんし、そもそも生き残ることすら困難でしょう。

 しかし、権益擁護「だけ」では困ります。

政権政党たる自民党が、結党以来、権益擁護「だけ」の政党であり続け、米国のエージェントであることをやめて日本の保護国的地位からの脱却を図ろうとせず、また官僚機構のエージェントであることをやめて官僚機構の非権益擁護団体化を図ろうとしなかったことが、現在の日本の閉塞状況をもたらしたのです。

残念ながら、小泉首相は、この点においても、これまでの歴代首相(自民党総裁)と何ら変わるところがありません。

以上からお分かりのように、小泉首相は、どこから見ても自民党をぶっこわしてなどいないのです。

では、せめて小泉首相は、自民党の権益擁護の対象の大幅な組み替え、すなわち、地方型の権益から都市型の権益への組み替え、に成功したのでしょうか。

答えはまたもやノーです。

(続く)