太田述正コラム#873(2005.9.20)
<「小さい政府」について(その2)>
(本篇は、コラム#866の続きです。)
5 政府・自民党及び民主党批判
(1)疑問
以上見てきたように、現在の日本は「小さい政府」であるわけですから、今後日本が「大きな政府」にならないよう、少子化対策を講じたり、財政再建を図る、というのなら話が分からないではないものの、先般の総選挙のマニフェストの中で、自民党(実態は政府・自民党)と民主党が、それぞれ公務員数の削減と国家公務員の人件費の圧縮を掲げているのはどうしてなのでしょうか。
(2)マニフェストとその解釈
ア 自民党
自民党は、マニフェストの「3.行政改革」のところで、
(1)国・地方を通ずる公務員の改革
[1] 総人件費削減(定員の純減、給与の見直し、公的部門全体の人件費抑制)
ア)財政改革の一環として、国・地方を通じて公務員の総人件費を大幅に削減します。
イ)事務事業を徹底的に見直し、国家公務員について、これまでの実績(過去5年間で2,535人)を大幅に上回る純減目標を策定します。また、地方公務員についても、過去5年間の実績(4.6%)を大幅に上回る総定員の純減を実現します。
・・・
エ)特殊法人、独立行政法人、地方公社、公益法人その他の公的部門の人件費については、原則として、国家公務員・地方公務員の総人件費削減に準じて厳しく削減します。
・・・
(4)道州制導入の検討促進
国・地方を通じた行財政の改革を実現し、新しい「国のかたち」を構築するため、道州制導入の検討を促進します。
としています。
自民党の考え方を、数字は省いて私の言葉に露骨に置き換えると次のようになります。
「従来通り、国家公務員と地方公務員の削減を続けていく。毎年の国家公務員の削減は、査定官庁たる財務省(主計局)の権力の維持につながることから、財務省のご意向に添って今後ともこれを続ける。道州制導入は「検討を促進」するだけにとどめ、お茶を濁す。だから、地方の業務量が増える要素がないので地方公務員を増やす必要はない。よって、地方公務員の削減もこれまでどおり安んじて続けることができる。こちらは、地方ににらみをきかせる総務省(旧自治省)の権力の維持につながることから、総務省のご意向にも添っている。こうして、業務量を削減するわけではないのに、公務員の削減は続けていくのだから、「特殊法人、独立行政法人、地方公社、公益法人その他の公的部門」すなわち公務に係る中間組織の業務量が益々増大するのは必然だ。この際、中間組織の業務量がこれ以上増大すると公務に係る責任の所在が一層不明確になりかねない、との批判は聞き流すことにする。よって、公務に係る中間組織の職員の数については、国家公務員や地方公務員のような具体的な削減目標を挙げず、しかも「原則として」をかぶせ、削減を免れるどころか、増やすことができるように配慮した。」
イ 民主党
民主党は、マニフェストの中で、
・・国は、外交、安全保障、通貨、金融など限定された分野を担い、機動的で効率的な強い政府をつくります。
?C新しい地方政治のかたちをつくります。
基礎自治体の規模拡大、基盤強化の中で、都道府県の自主的な判断を尊重しつつ、合併などによる道州制の実現へ向けた制度整備に着手します。
・・・
マニフェスト政策実施のために約7 兆円を充当する一方で、国の直轄公共事業半減(1.3 兆円)、国家公務員人件費総額2 割減(1 兆円)、特殊法人向け支出半減(1.8 兆円)、現在の個別補助金の一括交付金化に伴う2 割減(2.8 兆円)、税源移譲に伴う交付税削減(1.7 兆円)、その他経費の1 割削減、特別会計の徹底的な見直しなどによって、17 兆円の既存経費カットを実現します。
としています。
これを、数字は省いて私の言葉に素直に置き換えると、次のようになります。
「道州制を実現し、国は、外交・安全保障・通貨・金融など限定された分野のみを担い、後は地方に委ねる。この結果、中央官僚機構の業務量並びに関連中間組織(特殊法人等)の業務量は2割方削減されることになろうが、浮いたヒト及びカネは地方官僚機構及びその関連中間組織に振り替える。日本の総公務員数は決して多くないので、国家公務員と地方公務員を合計した総公務員数の削減は行わない。」
(3)結論
このように、少し精査してみると、自民党は、官僚機構の意向に添って、公務員の数の削減(中間組織の肥大化)という、実質のともなわない、しかも副作用のあるこれまでの政策を踏襲すると言っているだけなのに対し、民主党は、日本の公務員の数が決して多くないことを前提としつつ、国の権限・業務を大幅に縮小して地方の権限・業務を大幅に拡大する、というメリハリのきいた新しい政策を打ち出していることが分かります。
しかし、民主党はマニフェストで、「日本の総公務員数は決して多くない」とか「浮いたヒト及びカネは地方に振り返る。」と明記しませんでした。
これは、自民党に踊らされて、「小さい政府」の追求を、深く考えないまま当然視している有権者に、官公労を有力支持団体としているせいで、民主党は自民党と違って小さい政府を追求できないのだ、と思われることを懼れたためでしょう。
しかし、この結果、自民党と民主党の主張の違いがはっきりしなくなったどころか、民主党の主張が自民党の主張の焼き直しのように有権者の目に映ってしまったのではないのでしょうか。
(完)