太田述正コラム#874(2005.9.21)
<六カ国協議の「進展」をめぐって(その1)>
1 六カ国協議の「進展」
六カ国協議(The six-party talks)で、初の共同声明(joint statement)(http://www.nytimes.com/aponline/international/AP-Koreas-Nuclear-Text.html?pagewanted=print。9月20日アクセス)がまとまり、その中で、北朝鮮が核を放棄し早期に(at an early date)核拡散防止条約(NPT)に復帰すること、米国は北朝鮮を武力攻撃または武力侵攻しないこと、北朝鮮との間のエネルギー・貿易・投資に係る経済協力が推進されること、適当な時期に(at an appropriate time)北朝鮮への軽水炉(light-water nuclear reactor)提供問題が議論されること、等が謳われています。
この共同声明がまとまったことで、北朝鮮の核問題の解決に向けて大きな第一歩が記された、と言えるのでしょうか。
結論から先に申し上げると、この共同宣言の中に出てくる日朝交渉がすみやかに再開されるらしい(http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4261284.stm。9月20日アクセス)(注1)という点を除けば、すべては、11月上旬に再開される今後の六カ国協議で、この声明が具体化されるのを待つ必要がある、というのが本当のところです。
(注1)日本側は経済制裁をしないことを約束し、北朝鮮側は拉致問題の解決に向けての努力を行うことを約束した、という構図が、共同声明の文面の行間から読み取れる。
2 豹変したブッシュ政権
それにしても驚くべきは、米国の示した柔軟性です。
2003年に六カ国協議が始まって以来、一貫して北朝鮮は、米国が北朝鮮敵視政策をやめ、北朝鮮を武力攻撃したり武力侵攻したりしないことを約束し、援助や貿易を再開すれば、核は放棄する、と主張してきました。これに対し、米ブッシュ政権は、泥棒に追い銭は認められないとして、北朝鮮が飲まないことを承知で無条件の核放棄を求めてきたのであって、そのココロは、北朝鮮を体制崩壊に追い込むところにありました。
ところがこの共同声明を見ると、一見、ブッシュ政権は北朝鮮の体制崩壊をあきらめた上に、北朝鮮の主張に全面的に屈した観があります。
それだけではありません。
今回の協議において、突然北朝鮮側から新たに持ち出された、軽水炉の無償提供要求に対しては、声明中で言及することすら米国は峻拒の姿勢をとっていた(注2)にもかかわらず、協議決裂の寸前、態度を翻して、上掲のような形で声明に盛り込むことを認めたのです(注3)。
(注2)ブッシュ政権は、クリントン政権が1994年に北朝鮮と結んだ合意枠組み(agreed framework)で、北朝鮮が核開発を凍結(freeze)する見返りに軽水炉を(米日韓EUが合同で)無償提供することを約束したことを批判してきた経緯がある。2002年にブッシュ政権は、この合意枠組みに北朝鮮が違反した、として北朝鮮批判を開始し、現在に至っている。
(注3)米国は、声明の該当箇所は、北朝鮮が核を放棄した後に軽水炉の議論を始める、という趣旨であり、これは北朝鮮以外の5カ国共通の認識だ、と主張しているが、北朝鮮は、軽水炉の提供をうけてからしか核は放棄しない、という意向を20日に表明した。
一体、ブッシュ政権は何を考えているのでしょうか。
(以上、http://slate.msn.com/id/2126586/、(http://www.nytimes.com/2005/09/19/international/asia/19cnd-korea.html?ei=5094&en=2323686f0fc10326&hp=&ex=1127188800&partner=homepage&pagewanted=print、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200509/200509190016.html、http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/09/19/AR2005091900565_pf.html、http://news.ft.com/cms/s/fb900eea-294d-11da-8a5e-00000e2511c8.html(いずれも9月20日アクセス)による。)
(続く)