太田述正コラム#8862005.10.1

<中共に変化の兆し?(続)(その4)>

4 逆コース

 (1)始めに

胡錦涛政権下の中共では、以上ご紹介してきたような良い方向への変化の兆しが見られる一方で、反動的な動きも見られます。インターネット規制の強化と言論の自由の統制の強化です。

以下、それぞれについてご説明しましょう。

 (2)強化されたインターネット規制

中共のインターネット規制の実態については、以前(コラム#694で)ご紹介したところですが、6月初めと9月末に、規制が一段と強化されました。

まず6月初めには、3月に発表されていた規制が実施に移され、ブログやウェッブサイトの開設者は、当局に登録しなければならないこととされました。

そのねらいは、当局のお眼鏡にかなわないブログやウェッブサイトは、廃止させるか、当局の「ファイアーウィール」外の領域または国に移転させるところにある、と考えられています。

(以上、http://www.nytimes.com/2005/06/08/international/asia/08china.html?pagewanted=print(6月8日アクセス)による。

次に9月末には、ウェッブサイトやポータルサイトは国営の新聞・雑誌が掲載した記事や論説しか配信してはいけないこととされました。

そして、記事・論説を配信するのであれば、「ニュース機関」として当局の許可を受けなければならず、その許可は、立ち入り検査を受けた上で、過去に違法行為を行っていないことを証明し、120万米ドル相当の資本金を積み、10人以上の常勤の職員をそろえ、しかも経営者がメディアの世界での経験があることを証明した場合に初めて与えられることとされたのです。

またその際、コンテンツに関して、ブログやウェッブサイトには、ポルノやオンライン賭博や犯罪に係るもの、更には名誉毀損にあたるものが禁止されるのはもちろん、憲法・社会秩序・国家の尊厳を損なうものや迷信を助長したり社会的秩序に脅威を与えるものを掲載してはならず、違法な集会や、暴動や非公式団体に関する記事も掲載してはならない、とされました。

違反すると許可は取り消され、最高で罰金3,750米ドル相当が課された上、刑事上、あるいは国家安全上の罪に問われる可能性もあります。

このような規制強化の主たるねらいは、インターネットで、暴動・官吏の汚職・環境問題や労働問題をめぐる醜聞、あるいは土地の収用にからむ騒動、が伝達されることを妨げ、環境・労働・社会に係るNGOの活動と発展を阻害するところにある、と考えられています。

しかしこれでは、暴動を見聞した人間がそのことをメールに書いて友人に送っただけで処罰されかねない、とインターネットユーザー達は戦々恐々としています。

(以上、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-chinet27sep27,1,6718431,print.story?coll=la-headlines-world(9月28日アクセス)による。)

 (3)言論統制の強化

  ア 報道関係者の弾圧

 このところ、報道関係者の弾圧が続いています。

米ニューヨークタイムズの北京駐在中国人スタッフ、趙岩が昨年9月に、逮捕されましたが、これは同紙が、江沢民中央軍事委員会主席(当時)の辞任をスクープしたことに絡む措置であると噂されています。また、今年5月には、シンガポールの新聞の記者の程翔が逮捕されていることも明らかになった。これは胡錦濤の非公開演説を入手したためであると言われています。

(以上、http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20050604id23.htm(6月5日アクセス)による。)

  イ 公共知識人の弾圧

また、公共知識人(コラム#554)の弾圧も続いています。

 フリーランスの作家で政治批判を行っていた余杰(Yu Jie)と劉曉波(Liu Xiaobo)が逮捕されたことが昨年12月に明らかになりました(http://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2004/39727.htm。(9月30日アクセス)も参照した)し、インターネットで海外のウェッブサイトに、当局の報道人に対する報道規制指示文書をメールし、掲載させた劉萩(Liu Di)と師濤(Shi Tao)の二人が、ヤフーの「協力」によって逮捕され、昨年春に長期の懲役刑に処せられたことも今年9月に明らかになりました(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/09/10/AR2005091001222.html(9月30日アクセス)も参照した)

 また、軍医の蔣永(Jiang Yanyong)は、2003年に当局のSARS対策を批判して拘束され、昨年には1989年の天安門事件での当局の対応を批判して、結局再び拘束されました(コラム#349)。

 農村部の困窮は腐敗した地方当局の恣意的な課税や土地収用が原因であることを暴いた陳桂棣(Chen Guidi)・春桃(Wu Chuntao)夫妻の著書は、昨年2月に出版後1ヶ月で発禁処分を受けましたし、中共中央宣伝部(Communist Party’s Propaganda Departmentを批判した北京大学ジャーナリズム教授の焦國標(Jiao Guobiao)は、昨年9月に教壇に立つことを禁止された後、今年3月に大学当局の許可なく米国に向け出国したため、馘首されました(http://washingtontimes.com/upi-breaking/20050330-034311-9211r.htm(9月30日アクセス)も参照した)

 更に、言論・集会の自由を訴えてきた成都(Chengdu)大学法律学講師の王毅(Wang Yi)は、今年3月までの18ヶ月間、教壇に立つことを禁止されました(http://64.233.167.104/search?q=cache:VUWeH86VykAJ:chronicle.com/weekly/v51/i41/41a02901.htm+Wang+Yi%3BChengdu&hl=ja(9月30日アクセス)も参照した)

 これでは、胡耀邦時代はもとより、江沢民時代に比べても、政治的議論を行う自由度は低下した、と言わざるをえません(注5)。

 (注5)中共の青年組織である中国青年同盟(China Youth League)の機関紙の中国青年報(China Youth Dailyの有力編集部員が、同紙の昨年来の当局への迎合ぶりを文書で批判し、これを編集長がたしなめたところ、そのやりとりがインターネット上に漏洩する、という事件が8月に起こっているhttp://www.csmonitor.com/2005/0826/p01s04-woap.html。8月26日アクセス)

 ただし、昔と違うのは、政治的議論を行っても「罪」が本人以外には及ばなくなったことと、たとえ「罪」に問われても、「国家機密」漏洩が絡まない場合であれば、比較的短期間で解放されてほかの仕事に就くことが認められるようになったことです。

(以上、特に断っていない限りhttp://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2005/09/28/2003273572(9月29日アクセス)による。)

(続く)