太田述正コラム#897(2005.10.8)
<六カ国協議の「進展」をめぐって(その3)>
(本篇は、コラム#875の続きです。)
約3万人と目されるイラクの不穏分子は、もっぱら反米ナショナリストたるスンニ派アラブ人であってフセイン前大統領シンパは少ないところ、そのうち外国人は1割程度しか占めていないこと、かつこの外国人のうちサウディ人の割合は4?10%程度しか占めていないことが明らかになってきました。
ちなみに、一番多いのはアルジェリア人の2割、次いでシリア人の2割弱です(注6)。
(注6)同じイラクの隣国であるシリアとサウディは、イラクと国境をまたがって居住するアラブ部族を多数抱えているため、不穏分子志向者が国境を越えてイラク入りすることを防止することが困難である点が共通しているが、シリアの方がサウディより多数の不穏分子を輩出しているのは、シリアとサウディのそれぞれの政府の取締意思と取締のための資金力等の違いやサウディ・イラク国境がシリア・イラク国境に比べてはるかに過酷でかつ見通しのきく砂漠地帯であるためである、と考えられている。
やはりイラクの隣国であるトルコとイランについては、両国共非アラブ国であって、トルコは世俗化しており、イランはシーア派主体であることから、スンニ派アラブ人であるところの不穏分子は出にくい、というところか。
もう一つのイラクの隣国であるヨルダンから不穏分子が殆ど出ていない理由は不明。
サウディ出身者の多くは、イラク戦争が始まってから不穏分子たることを志した中産階級出身の職に就いていた若者達である、ということも明らかになってきました。
(以上、http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1576666,00.html(9月24日アクセス)、及び(http://www.csmonitor.com/2005/0927/p01s03-woiq.html(9月27日アクセス)による。)
以上は、最近明らかになった、とはいうものの、元からそうだった可能性が高い、と言えるでしょう。
それに対し、このところ大きく変わってきたこともあります。
それは、従来は外国人たる不穏分子が自爆テロといった、最も過激なテロ活動を一手に担ったいたところ、このところ、イラク人たる不穏分子が外国人に取って代わりつつあることです。
これはイラク人が、イラク国内の、ザルカウィ(Abu Musab al-Zarqawi。コラム#395、421、482、669、727)が率いているとされるアルカーイダ系組織の幹部の地位を占めるケースが出てきたことを同時に意味します。
駐イラク米軍は、イラク人が既にイラク内のアルカーイダ系テロリストの半分を占めていると考えているのに対し、駐イラク英軍は、これは過大な見積もりだとしていますが、いずれにせよ、イラクのスンニ派アラブ人のうち、アルカーイダ系テロリストが掲げるカリフ制復活等の「大義」を信奉するに至った者がそれほど大勢いるとは思えませんが、アルカーイダ系テロリストによる、イラク国内における米英等多国籍軍・民主主義・シーア派をターゲットにした過激なテロ活動については、シンパシーを感じる者が増えつつあることは、間違いのないところです。
(以上。http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1572812,00.html(9月18日アクセス)による。)
このアルカーイダ系テロリストのテロ活動のターゲットの重点が、米英等多国籍軍・民主主義(イラク政府)・シーア派のうちの最後のシーア派の一般住民へと移されたことも、最近の大きな変化です。
9月の中旬にザルカウィは、「イラク全土で、いつどこでシーア派を見つけても、彼らに対して全面戦争を行う」と宣言しましたが、これは既に行われていたことを再確認しただけのことです。
もとよりそのねらいは、イラクにスンニ派とシーア派の間の内戦を勃発させ、イラクを泥沼化することです。
これまでのところそうなっていないのは、シーア派、とりわけイラクのシーア派住民が、長年にわたって受難に耐えることに慣れっこになってしまっているからですが、いつまでも彼らが一方的に攻撃を受ける立場を甘受し続ける保証はどこにもありません。
(以上、http://www.nytimes.com/2005/09/19/international/middleeast/19shiites.html?pagewanted=print(9月20日アクセス)による。)
以上をまとめると、恐らく最初からイラクの不穏分子はイラク土着のスンニ派アラブ人が大部分を占めてきたところ、かつては外国人の専売特許であった自爆テロといった過激なテロ行為を行うイラク土着の不穏分子が増え、それに加えてテロの主たるターゲットがシーア派一般住民にシフトした、ということです。
これは、イラク国内のスンニ派アラブ人が多数居住するいわゆるスンニ三角地帯における不穏分子を根絶することは、不可能になったことを意味します。味方の一般住民を、敵方の一般住民によって支持された自爆テロから守ることは、敵方の一般住民が完全に分離されていて、しかも猫の額のように狭いイスラエルにおいてさえ、壁を建設するまでは困難だったのですから・・。
要するに、多国籍軍やイラク政府が、不穏分子に勝利することは見通しうる将来にわたってありえなくなったわけです。
(続く)