太田述正コラム#925(2005.10.29)
<米原子力空母の横須賀配備>
1 始めに
私が米原子力空母の横須賀配備問題を提起したのは、二年前の2月のこと(コラム#99)でしたが、ついにこの件について、日米政府間で合意が成立したとの発表が27日にありました。
米側は、1964年以降、米軍の原子力艦艇が1200回以上も安全に日本に寄港してきたことを強調しつつ、横須賀基地で接岸中・停泊中には原子力空母の原子炉を停止させるし、日本では核燃料の補給や原子炉の修理は行わない、とPRに大わらわです。
2 反対論
しかし、地元の横須賀市等はさっそく反対の意思表示をおこないました。
原子力空母は通常型空母より大型で、港のしゅんせつ作業や大幅な電力施設建設に約2年かかることから、原子力空母の横須賀配備は2008年夏が予定されていますが、果たして地元の同意を取り付けることができるかどうか、私は危惧の念を持っています(注)。
(以上、http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20051028k0000e040016000c.html、及びhttp://www.cnn.com/2005/WORLD/asiapcf/10/27/japan.nuclear.ap/index.html(どちらも10月28日アクセス)による。)
(注)横須賀は小泉首相の選挙区だが、小泉さんは本当に分かっていてゴーサインを出したのだろうか。それとも、首相を辞めた後は国会議員も辞めるつもりで、その後のことは関心がない、ということなのか。
なぜなら、横須賀への配備反対論にはそれなりの根拠があるからです(コラム#99参照)。
確かに、接岸中・停泊中には原子炉を停止させるのであれば、私がかつて挙げた配備反対論の大部分は形の上では解消しますが、横須賀基地は、中共の核ミサイルや中共や北朝鮮の通常弾頭ミサイルが照準を定めていることを忘れてはなりません。核ミサイルが飛んで来た時にはどうしようもありませんが、横須賀が通常弾頭ミサイルで攻撃されただけで、原子力空母が被弾して原子炉が破壊されて(東京湾を含む)首都圏が核汚染される危険性があることは、ゆゆしい問題です。
私は、通常型であれ、原子力空母であれ、その日本配備には賛成ですが、原子力空母であれば、偏西風を考慮し、かつまた空母の防空上の縦深性確保の観点から、太平洋岸の外海に面した過疎地の港に配備することが大前提だと思うのです。
ところが、空母艦載機の基地を厚木から岩国に2008年にも移転させることについて既に日米間で合意が成立しており、そのための経費1,000億円超についても、本来は米側が負担すべきところを、気前よく日本側が負担することになっています。
厚木から岩国に移転させるのは、艦載機のNLPの訓練の大半は硫黄島で実施しているものの、一部は母基地で実施せざるを得ず、その周辺で騒音公害が生じますが、四囲が人口密集地である厚木基地と違って、岩国基地で現在整備中の滑走路は沖合にあり、(NLP全体を岩国で実施するつもりがなければ)市街地での騒音公害の度合いがはるかに小さいからです。
(以上、http://www.tokyo-np.co.jp/00/sei/20051014/mng_____sei_____002.shtml(10月15日アクセス)、及びhttp://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20051026/mng_____sya_____007.shtml(10月26日アクセス)による。)
ですから、岩国への移転については、地元の同意を取り付けることはできると思われ、艦載機の移転の方が先行して完了する可能性があります。
しかし、肝腎の空母そのものの母港が決まらなければ、せっかく基地を移転した意味はなくなりますし、そのために日本政府が負担した1,000億円超はドブに捨てたことになってしまいます。
もっと困ったことは、岩国に艦載機を移転させてしまうと、空母の母港を横須賀から移転する場合の移転先から東京以北(日本の半分)が除かれてしまい、移転先のオプションを狭めてしまうことです。
3 終わりに代えて
この話や普天間基地の移設問題でのドタバタ劇(いずれ取り上げる)を見ていてつくづく思うのは、日本政府が、相も変わらず、安全保障問題を自分の頭で考えようとせず、目先の問題を金をちらつかせながら先送りする、という吉田ドクトリン下の行動様式を少しも変えていない、ということです。