太田述正コラム#937(2005.11.7)
<報道の自由「後進国」の日本(続)>
<読者M>
今回の記事(コラム#936)の主旨は日本メディア批判ですが、見過ごせない点があります。
1.三笠宮さまが男系維持のために側室をおくべきとする私的な意見を述べたとするガーディアンの記事をあたかも根拠あるかのように記述していること
2.ガーディアン記事に訂正の申し入れがない点をもって、事実と断定するかのような記述3.ガーディアン記事の無視をもって日本メディアの自主規制と断定していること。
まず、外紙はこれまでも皇室について事実に反するデマ記事をたびたび掲載していますが、宮内庁は全く無視しています。それどころか、国内の週刊誌の記事についてすら訂正を申し入れたことはほとんどありません(わずかの例外はあると思います。)これは相手にしていると論争を巻き起こし、あらぬ疑いを生じるだけということもあり、これまでの皇室の方々の行動により十分理解されると考えているためと思われます。雅子妃の病状についても多くの記事が出されましたが、皇室からは紀宮様の結婚に際しての機会に「多くの事実に基づかない憶測や言論が展開されたことは、大変残念なことでした。」(http://www.kunaicho.go.jp/sayako/sayako-kaiken-h17.html)という反論というにはあまりに控えめな感想が述べられただけです。デマ記事に果敢に論争を挑むのは欧米では普通なのかもしれませんが、日本皇室にはあてはまらないのです。デマに類する話を日本メディアが無視するのは別に自主規制とはいえないでしょう。
側室については2chのようなブログの世界では盛んに論じられていますが、もちろん野次馬の勝手な論議です。肝心の皇室内部のことはうかがい知ることはできないのですが、大正天皇、昭和天皇のお二方とも一夫一婦制を堅持し、側室制度は廃止されたことは周知のことです。大正天皇及びその后、貞明皇后のお二方とも側室の出でしたが、大正天皇は成人するまで生母が皇后美子ではなく、柳原愛子であることを知らず、知ったときにはショックを受け、側室制度の廃止を望んだとされています。(小田部勇次、「ミカドと女官」p146)また、皇后節子(貞明皇后)も生母が身分の低い側女であったため、生母の不遇な境涯を見て育ち、皇室の一夫一婦制度の確立の大きな推進力となったといわれています。昭和天皇は女官制度を改革し、女官を既婚女性かつ、通勤とし、後宮を全く廃しました。しかし、昭和天皇には内親王ばかり4人も生まれたため、現在と同じように皇統の危機が生じ、側室制度の復活を求める重臣が居ましたが、昭和天皇は断固拒否したと伝えられています(高橋紘、所功、「皇位継承」文春新書p166)。三笠宮さまがこれらのことをご存じないはずはないでしょう。ましてや、貞明皇后はおばあさまであり、昭和天皇は叔父さまにあたります。これら肉親の方々の苦しみを直接にご存じの方が側室について言及するとしたら、単に過去の歴史として取り上げる以外には考えにくいと思われます。ガーディアンの記事は信ずるに足りないでしょう。
ところで、太田先生は今上天皇(平成天皇)と書かれることが多いのですが、これは意図してのことでしょうか。いうまでもなく、昭和天皇、あるいは大正天皇とは諡名(おくりな、民間の戒名)であって、崩御後のお名前です。左系の方は皇室を憎悪するためにわざと侮蔑の意図をもってこのような言い方をよくします。論調からすると比較的保守的と思われ、意外に思われるので真意を伺いたいと存じます。
<太田>
>ガーディアンの記事をあたかも根拠あるかのように記述している
この4年間、ガーディアン等の英米のサイトをフォローしてきていますが、ガーディアンが(私の知っている事実と違った)誤った事実を報道したことは一度もありません。むろん、不正確な記事や誤った記事が皆無だったというわけではありません。そんな場合は、すみやかに訂正報道がなされている、ということです。
他方、BBCは一度ありました。たまたま、同じ女性天皇の話なのですが、女性天皇を認めるためには憲法改正が必要だ、と(サイトで)報じたのです。私はただちに訂正を申し入れたのですが、訳の分からない返事を寄越しただけで、訂正はしませんでした。しかも、あきれたことに、その後、女性天皇問題を取り扱う際に、憲法改正が必要と以前報じたことを正当化するような報道を行ったと思ったら、最近の報道では皇室典範の改正にしか言及しなくなっています。(典拠を示すことは可能ですが、作業量の関係から、勘弁していただきたい。)
これ以来、私はBBCの報道には、常に眉唾で接することにしています。
>外紙はこれまでも皇室について事実に反するデマ記事をたびたび掲載しています(が、宮内庁は全く無視しています。)
例を挙げてください。(少なくともガーディアンではないはずです。)
いずれにせよ、ガーディアンの影響力を考えたら、宮内庁は抗議すべきです。世界中のオピニオンリーダー達が、皇室について、誤った認識を持つことになるからです。
また、ガーディアンが報じたゆえに、これはビッグニュースです。
日本のメディアが、このガーディアン報道を無視していることは、怠慢のそしりをまぬがれません。
これは、
>デマ記事に果敢に論争を挑むのは欧米では普通なのかもしれませんが、日本皇室にはあてはまらないのです。デマに類する話を日本メディアが無視するのは別に自主規制とはいえないでしょう。
についての私の所見でもあります。
>ガーディアン記事の無視をもって日本メディアの自主規制と断定している<のはおかしい>
以上申し上げただけでも、皇室についての自主規制が(宮内庁との癒着の下で)日本のメディアの間で行われていることの傍証として十分だと思います。
念のためにもう一つ挙げておきましょう。
今から申し上げる話は、書きたくなかったのですが、(生命の危険を冒して(?!))あえて書きます。
昭和天皇の晩年に、信頼のおける私の知人のキャリア官僚で、侍従をしたことのある人が皇室についての話をこっそりしてくれたことがあります。
彼いわく、「明治以降も天皇制が続いてきたことは奇跡に近い。歴代の天皇及び皇太子、並びにそれに準じるごくわずかの皇族以外の皇族の大部分は、私の伝聞と実体験に照らせば、「まとも」な人間ではない。たまたま「まとも」な人が天皇になってきた幸運に日本人は気付いていない。」
ところが、ほとんどの皇族が「まとも」ではないことを裏付ける国内報道はなされていませんね。それはどうしてでしょうか。
>太田先生は今上天皇(平成天皇)と書かれることが多いのですが、これは意図してのことでしょうか。
括弧書きを入れるのは、昭和天皇等が同時に登場するような文脈の中で、混乱を避けるためであり、それ以外の理由はありません。
それにしても、私を太田「先生」と呼ぶのは止めませんか。
そんな敬称をつけることが、「自主規制」につながるのではないでしょうか。